語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】麻薬撲滅のための経済学思考 ~アピールと説得の理論と方法~

2018年02月07日 | 批評・思想
 ①トム・ウェインライト(千葉敏生・訳)『ハッパノミクス 麻薬カルテルの経済学』(みすず書房 2,800円)
 ②ジェフリー・ミラー (片岡宏仁・訳)『消費資本主義! 見せびらかしの進化心理学 』(勁草書房 3,500円)
 ③ロバート・B.チャルディーニ (安藤清志・監訳、曽根寛樹・訳)『PRE-SUASION 影響力と説得のための革命的瞬間』(誠信書房 2,700円)

 (1)①では、英「エコノミスト」誌の記者が、中南米の麻薬ビジネスの実態をレポートする。単なる潜入ルポではなく、実は麻薬カルテルが、私たちが知るグローバルビジネスと同じ手法を使うと指摘し、麻薬撲滅には経済学的な対策が必要だと訴える。
 〈例〉コカ畑掃討作戦で供給量が減ってもコカイン相場が上がらないのは、カルテルがウォルマート並みのサプライチェーンを掌握し「買い手独占」状態を敷いているから。多大なコストを負っているコカ畑農家に対して、他の作物への補助金支給というアメこそ掃討作戦というムチに勝る。その他にも章見出しは、人材問題、広告、フランチャイジングなどと経済からの視点と説得力に引き込まれまれる。

 (2)経済学者S・ウェブレンによる「見せびらかし消費」を進化心理学的な視点から考察したのが②。オスの孔雀が美しい羽の維持にコストを掛けるのは質実剛健のシグナルとなるから。そんな「コスト高シグナリング」は人間にもある。身体的なものを強調する「物理的表現」と教養や資質を強調する「行動型の表現」だ。最近は物質的なものの所有より精神的資質を強調するのがトレンドとか。最近の売れ筋ビジネス書のタイトルがいろいろ連想され興味深く、賢い消費生活を考えるヒントがある。

 (3)『影響力の武器』の社会心理学者による33年ぶりの単著が③。プリ・スエージョンPRE-SUASIONとは「下準備」の意。前著は、人に影響を与えるための手法の分析だったが、本書は影響力が強い達人たちが、同意を得るためにどのような下準備を、「いつ」行っているかを詳細に考察する。逆に言えば私たちはどのような力に影響されて同意するのかを知らされる。『消費資本主義!』ではアピールと同意の生物学的な背景を、本書では社会的な主体としての背景を学ぶという読み方もできる。

□宮野源太郎(丸善・ジュンク堂書店営業本部)「麻薬撲滅のための経済学思考/アピールと説得の理論と方法 ~目利きのお気に入り~」(「週刊ダイヤモンド」2018年2月10日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【本】モンゴルのユーラシア制覇 ~『モンゴルvs.西欧vs.イスラム 13世紀の世界大戦』~
【本】歴史はどう繰り返すのか ~『歴史からの発想』~
【本】社会変革のヒントを得る ~『フィンランド 豊かさのメソッド』~
【本】時流に流されないために ~『誰か「戦前」を知らないか 夏彦迷惑問答』~
【本】戦争の矛盾がよく理解できる/存在自体が珍しい軍事技術書 ~『兵士を救え! (珍)軍事研究』~
【本】北朝鮮核危機を描く労作 ~『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』~
【本】スウェーデンの高福祉で高競争力、両立の秘密 ~『政治経済の生態学』~
【本】ネット時代のテロリズムはどこから生まれてくるのか ~『グローバル・ジハードのパラダイム: パリを
【本】1920年代の経済報道に学ぶ ~『経済失政はなぜ繰り返すのか メディアが伝えた昭和恐慌』~
【本】朝日新聞・書評委員が選ぶ「今年の3点」(抄)
【本】著者の知的誠実さに打たれる日韓問題を深く理解できる書 ~『「地政心理」で語る半島と列島』~
【本】人の判断はなぜ歪むのか/2人の研究者の友情物語 ~『かくて行動経済学は生まれり』~ 
【本】エネルギーの本質を学ぶ ~『エネルギーを選びなおす』~
【本】JR九州の勢いの秘密を凝縮 ~読んで元気が出る人間の物語~
【本】日本は英国の経験に学べ ~『イギリス近代史講義』~
【本】噴火の時待つ巨額損失のマグマ ~『異次元緩
【本】“立憲主義”の由来を知る ~『立憲非立憲』~
【本】日本語特殊論に与せず ~『英語にも主語はなかった』~
【本】小国の視点で歴史を学ぶ ~『石油に浮かぶ国/クウェートの歴史と現実』~
【本】日本における婚姻を考える ~『婚姻の話』~
【本】元財務官僚のエコノミストが日本経済復活の処方箋を説く ~『日本を救う最強の経済論』~
【本】歴史を知らずに大人になる不幸 ~『戦争の大問題 それでも戦争を選ぶのか。』~
【本】私たちの食卓はどうなるのか ~工業化された食糧生産の脆さ~
【本】歪み増殖していく物語に迷う ~『森へ行きましょう』~
【本】加工食品はどこから来たのか ~軍隊と科学の密な関係~
【本】80年代中世ブームの傑作 ~『一揆』~
【本】万華鏡のように迫る名著 ~『新装版 資本主義・社会主義・民主主義』~
『【本】『世界をまどわせた地図』
【本】率直過ぎる米情報将校の直言 ~『戦場 -元国家安全保障担当補佐官による告発』~
【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~」」
【本】舌鋒鋭く世の中の本質に迫る/地球規模で読まれた洞察の書 ~『反脆弱性』~
【本】【神戸】「自己満足」による過剰開発のツケ ~『神戸百年の大計と未来』~
【本】英国は“対岸の火事”にあらず ~新自由主義による悲惨な末路~
【本】人材開発でもPDCAを回す ~戦略的に人事を考える必読書~
【本】仮想通貨が通用する理屈 ~『経済ってそういうことだったのか会議』~
【本】進化認知学の世界への招待 ~『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』『動物になって生きてみた』~
【本】「戦争がつくっった現代の食卓」 ~ネイティック研究所~
【本】IT革命、コミュニケーションの変容、家族の繋がりが希薄化 ~『「サル化」する人間社会』~
【本】生命はいかに「調節」されるかを豊富な事例で解き明かす ~『セレンゲティ・ルール』~
【本】メディアの問題点をえぐる ~『勝負の分かれ目 メディアの生き残りに賭けた男たちの物語』~
【本】テイラー・J・マッツェオ『歴史の証人 ホテル・リッツ』
【本】中国から見た邪馬台国とは
【本】核兵器は世界を平和にするか ~著名学者2人がガチンコ対決~
【本】『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』
【本】梅原猛『梅原猛の授業 仏教』
【本】東芝が危機に陥った原因は「サラリーマン全体主義」 ~『東芝 原子力敗戦』~
【本】バブル崩壊後の経済を総括 ~『日本の「失われた20年」』~
【本】20世紀英国は実は軍事色が濃厚 ~通念を覆す『戦争国家イギリス』
【本】時代による変化、方言など ~『オノマトペの謎 ピカチュウからモフモフまで』~
【本】冷笑的な気分に喝を入れる警告と啓発に満ちた本 ~『日本中枢の狂謀』~
【本】物質至上主義批判の古典 ~『スモール イズ ビューティフル』~
【本】日本近現代史を学び直す ~『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』~
【本】精神の自由掲げた9人の輝き ~『暗い時代の人々』~
【本】遊牧民は「野蛮」ではなかった ~俗説を覆すユーラシアの通史~
【本】いつも同じ、ブレないのだ ~『ブラタモリ』(1~8)~
【本】分裂する米国を論じた労作 ~『階級 「断絶」社会 アメリカ』~
【本】否応なきグローバル化、つながることの有用性 ~「接続性」の地政学~
【本】読書の効用、ゆっくり丹念な ~より速く成果を出すメソッド~
【本】国谷裕子『キャスターという仕事』


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。