語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【中国】システムの危機と上部からの腐敗 ~老化する大国(3)~ 

2014年05月11日 | 社会
 (1)2014年現在、すべての国が知的、心理的、技術的観点から見て、同じ時代(段階)にあるわけではない。国民の教育に着目して、1900年頃の北欧を基準にすれば、仏独日のような国は、それから100年後の2014年という現代にふさわしい水準にある。
 しかし、中国はまだ1900年の段階だ。
 1900年頃は、ナショナリズムの猛威と戦争の時代だ。同時に、大衆の識字化(ただし高等教育を受けるのはまだごく一部にとどまる)の時代だ。

 (2)共産主義からの脱却は、中等教育の進展の次の段階に対応している。
 アラブの春は、17世紀のイギリス革命、1789年のフランス革命、1917年のロシア革命、1940年代末の中国革命に対応している。アラブの春と比較すべきなのは、ロシアの脱共産主義化や「アフマディネジャド主義」から脱却しようとしているイランのありようだ。

 (3)中国について、むろん肯定的な要素も見受けられる。生活水準の向上、都市部の中間層の台頭など。国民にとって現在の中国は、毛沢東時代よりはるかに生活しやすい。
 ただ、社会システム全体の安定性となると、否定的要素が数多く存在する。
 キャッチアップの途上で高い経済成長率を維持することはそれほど複雑なことではない。中国はキャッチアップの局面にあるが、そう遠くないうちにゼロ成長を迎えるはずだ。今の中国が高い成長率を示しているのは、後から出発した国だからだ(当然のことだ)。
 欧州においては、国家による法体系の整備と所有権の確立が重要だった。法的制度の整備が資本主義の自由な発想を可能にした。
 今の中国には、こうした明確な制度が欠けている。秩序、国家制度の一貫性、公共投資、所有権、企業にとって信頼できる経済システムを保障する国家・・・・中国にはそれがない。

 (4)中国の家族への回帰は、一方で共産党の人々の間で、他方でビジネス関係者の間で生じている。
 高官たちによる巨額の汚職が明るみに出ているし、資産を海外に移しているのは共産党員の赤い百万長者たちだ。こうしたことのすべては、中期的に見て、システムの目に見える危機と腐敗が社会の上部から始まっていることを示す。

 (5)資本主義にはいくつかの異なるモデルが存在するが、アングロ・アメリカ世界こそ西洋史の真の原動力だ。
 日本の社会生活や経済生活には相互承認がたいへん重要になる。市場や個人主義ではなく、非公式、つまり個人的な結びつきが経済を円滑に機能させている。日本経済を現にあるように機能させているのは、個人の道徳性の高さ(きわめて高い自己規律)だ。
 問題は、ロシアや中国のようなシステムの国が、市場、諸権利の保障、伝統的な家族システムの上に築かれた個人間の関係の活用、それらをうまく結び合わせ、彼らなりの資本主義の概念を定義できるかどうかだ。少なくとも現時点では、中国とロシアに確認できるのは汚職とマフィアの存在だ。
 
 (6)欧州で、実際に中国と経済協力関係を打ち立てることができたのはドイツだけだ。中国とヨーロッパとの関係を考えるなら、ドイツに注目せよ。
 経済協力関係については、中国によるごり押しも可能だ。しかし、地政学のレベルで中国が脅威となる兆候をわずかでも示せば、フランスをはじめとする欧州諸国は米国と共闘することになる。
 地政学の観点からいえば、来るべき世界で、中国はその市場規模だけをもって勢力を増していくことになるだろう。ただ、それは不安定な要素を伴うことになる。このことはすでに全世界、ことにアジアを不安がらせている中国の過激な国家主義的振る舞いに表れている。
 すでに自己の限界を認めている以上、もはや米国は世界の脅威となっていない。そのことによって、米国主導の秩序は新たに生まれ変わるはずだ。
 <例>ベトナムは、米国に抵抗して内部の独立を勝ち得た。そのベトナムでさえ、中国の脅威に対して、米軍に海軍設備を提供する用意があることを表明している。
 中国にとっての真の脅威は、みずからの誇大妄想的な野望だ。いかなる攻撃的な態度も、次のような事態を招き得る。すなわち、大部分の関係国が、米国を世界平和の保証人として再定義するという事態だ。

□エマニュエル・トッド(フランス国立人口学研究所研究員)/聞き手:三井美奈(読売新聞パリ支局長)「腐敗は「頭部」から始まっている --人口学から見た、老化する大国の暗い未来」(「中央公論」2014年5月号)
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 【参考】
【中国】党指導部はゲームの脇役 ~老化する大国(2)~ 
【中国】共産主義の崩壊と伝統的家族への回帰 ~老化する大国(1)~
【中国】低迷する経済 ~習近平政権の1年~
【中国】現地取材で痛感 やっぱり危ない中国産食品
【中国】実録・猛毒食品「僕らだって怖い!」 ~中国人は語る~
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【食】中国における食品汚染事件 ~悪質ケース50(抄)~
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