語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【航空】“勝ち組”ピーチが大失速 ~日本版LCCの正念場~

2014年05月17日 | 社会
 (1)あと20秒遅ければ墜落・・・・。
 折しも黄金週間に突入直後、格安航空(LCC)のピーチ・アビエーションが引き起こしたアクシデントだ。
 4月28日、那覇空港の滑走路から7km手前で、エアバスA320が海上75mまで急降下。対地接近警報装置の音に気づき、慌てて機首を持ち上げて難を逃れた。
 運航していたアルゼンチン人機長(45歳)いわく、「管制官から降下指示があったと勘違いした」
 このお粗末さに航空業界は唖然とし、国土交通省から重大インシデントと指定されたピーチは、信頼回復に大わらわだ。

 (2)事は、それだけでは済まない。ピーチ、ジェットスター・ジャパン、エアアジア・ジャパン(現・バニラ・エア)の3社で始まった日本版LCC。他の2社が苦戦する中、唯一の勝ち組と呼ばれてきたピーチの異変は、LCC全体の問題でもある。
 今回の重大アクシデントの前に、ピーチは減便、欠航を発表していた。機長の病気や怪我を理由に、夏場に予定していた増便計画を撤回した上、この先5~10月で全体の16%にあたる2,088便減らす、という(4月30日に「最大2,072便」と変更)。パイロット不足と言われて久しい航空業界にとって、ピーチの失速は他人事ではない。

 (3)LCC業界に限らない。航空業界全体がパイロット、客室乗務員(CA)、整備士といった運航人員の不足に頭を抱えている。
 原因は、近年のアジアにおけるLCC各社の急成長だ。新たな客を発掘してきたLCCは、すでに欧米の航空シェアの3割を占める。アジアもそれに近づきつつあり、機材の需要が急激に高まった。
 その分、運航人員の確保が難しくなっているわけだ。
 ピーチの場合、経営破綻した日本航空(JAL)のパイロットやCAの受け皿となった。3機でスタートを切ったから、最初は順調だった。しかし、今は12機に増え、パイロット不足が発生しているのだ。

 (4)整備士不足で運航トラブルを頻発してきたのが、ジェットスターJ(豪州カンタスグループ)だ。ここにJALも出資しているのだが、JALにはジェットスターJが使うエアバスA320がない。整備士問題は、今も深刻だ。
 ここはピーチとは逆に、増便を発表。国内76便から、最大94便に増やす、とホームページで謳っている。なぜか。
 <ジェットスターJは2012年の就航以来、2年で24機のA320を調達し、便を増やすと計画してきた。実際、昨年には18機まで増え、機材の調達そのものは順調でした。ところが、そこに運航人員が追い付いていかないため、機材が余って困っていました。あげく飛行機を拠点の成田空港に駐機したままになったり、他社へリースしたりして凌いできたようです。が、コストはかかる。赤字が膨らむばかりですから、増便して機材の稼働率を上げようとしているわけです」【航空関係者】

 (5)LCCは、ギリギリまでコストを削減しなければ、格安運賃を実現できない。なかでも機材の稼働率は大きな要素だ。ただでさえ就航以来赤字続きのジェットスターJが、これでは黒字転換などほど遠い。
 おまけに、残るバニラ・エアにいたっては、マレーシアのエアアジアが撤退し、全日空のてこ入れで出直したばかり。まだよちよち歩きだ。
 本来、まだ日本に根付いていないLCCは、成長産業であり、期待できる業界だ。
 にも拘わらず、この体たらくなのだ。
 で、そんな低迷を尻目に、中国の春秋航空日本が、日本へ就航。
 撤退したはずのマレーシアのエアアジアも再び進出する、と表明した。
 トニー・フェルナンデス・エアアジアCEOは、中部国際空港や地方空港などを拠点に、「日本をシンガポールの赤で染める」と、相変わらず意気軒昂だ。
 日本のLCCは、太刀打ちできるか。

□森功「“勝ち組”ピーチが大失速 数少ない「成長産業」 日本版LCCの正念場 ~ジャーナリストの目第205回~」(「週刊現代」2014年5月10.17日号)
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 【参考】
【航空】パイロット不足危機の構造 ~ピーチの大量欠航~