語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【労働】今国会で派遣法“改悪”か ~企業重視で派遣労働者増加~

2014年05月26日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)「世界で一番、企業活動がしやすい国」・・・・をめざす安倍首相の下、今国会で労働者派遣法の改正案が審議中だ。
 政府は、「派遣労働者の均等待遇の確保」を目的に掲げる。しかし、実際には企業重視の“改悪”で、派遣労働から抜けられなくなるという意見も多い。
 改正案の最大のポイントは、
  (a)派遣会社に無期雇用されている派遣社員の受け入れ期間に、制限を設けていないことだ。
  (b)たとえ有期派遣であっても、永久に受け入れを延長することが可能になる。

 (2)今の派遣法では、通訳業など専門性の高い26業種は派遣期間に制限を設けていない。一方、それ以外の業務で派遣の受け入れが継続して許されるのは最長3年までだ。
 だが、改正案では26業種の枠を撤廃し、代わりに派遣労働者が派遣会社に無期雇用されているか否かに分けた。
  (a)無期の場合・・・・受け入れ先の企業で無期限に働けるようになる。
  (b)有期の場合・・・・同一派遣労働者が同じ職場で働けるのは3年が限度だが、「人を変えさえすれば」、企業は何年でも派遣労働者を受け入れることが可能になる。自社の労働組合から意見を聞けば、3年ごとに延長が認められる仕組みにするからだ。

 (3)現行の「派遣受け入れは最長3年」の制限をなくし、企業の派遣労働の利用が増えれば、派遣労働者の雇用が安定するようにも見える。
 だが、実際は違う。
 派遣労働は最も好ましくない労働形態だ。ILOも労働は商品ではない、と定義している。そもそも派遣法を正当化する根拠は、正規雇用にとって代わる仕組み(常用代替)を作らない、ということだった。それが、次第に業種の範囲も期間も拡大し、今回の改正案では「派遣労働野放し法」になってしまう。これでは派遣労働者の保護はできない。【宮里邦雄・日本労働弁護団前会長】
 本来あるべき雇用形態は、労働者と企業との間で雇用契約を交わすもの。それが派遣という形にとって代わると、労働者の雇用は不安定になるのだ。
 事実、リーマンショック(2008年)の際には、企業の都合で簡単に派遣切りが行われた。
 また、正社員と派遣社員の間に均等待遇の原則が成り立たない日本では、派遣労働者の給料は格段に低い。今回の改正案が成立してしまうと、低賃金のまま生涯派遣を続けなくてはならない土俵を作ってしまう恐れがある。

 (4)4月18日、改正案を批判する組織が東京都内で反対集会を開催した。参加者は、派遣労働者ら220人。
 正社員を雇う会社がどんどん減り、いまの正社員さえいずれ派遣に変えられることになる。安倍首相は賃金を上げるといいながら、派遣を進めるなど、言うこととやることが別だ。【山井和則・衆議院議員(民主党)】
 このほか、非正規労働者の権利実現全国会議【注1】は、ネット上で反対署名【注2】を呼びかけ、5月13日現在、4,335筆の署名が集まっている。
 そこへ次のようなコメントが数多く寄せられている。
 改正案は、<派遣社員の働き方を「他人事」と思っていた正社員と呼ばれる人たちの働き方を大きく変えることになる><どんなに働いても3年で解雇されるようになれば、まじめに働くのがバカバカシイと考える人が増える>
 改正案はしかし、国会が自公で圧倒的多数を占める現状では、今国会で成立する可能性が高い。

 【注1】「非正規労働者の権利実現全国会議
 【注2】「ネット上で反対署名

□桐島瞬(ジャーナリスト)「今国会で派遣法“改悪”の可能性も 企業重視で派遣労働者増加か」(「週刊金曜日」2014年5月16日号)