事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「現代映画、その歩むところに心せよ」 川本三郎著 晶文社

2009-10-10 | 映画

Kawamoto06 「世界」や「中央公論」などに連載された原稿が多いためか、かなりジャーナリスティックに読者を啓発する内容になっている。もちろん川本三郎こそジャーナリストそのものであるわけで、いわばフランチャイズで仕事をしているのだろう。でもわたしは、現代最高の映画評論家である川本の芸のありかは、もっと別のところにあるのではないかとも思っている。

川本の慎み深い芸は、哀しいことに彼の奥さん(川本恵子)が亡くなってしばらくたってからのキネ旬の連載において炸裂した。妻を失った哀しさを、一本の地味な映画に託してそっと語り、以降は何ごともなかったかのように連載を続けている。都会人のたしなみというものであろう。

苛烈にして政治的だった来歴を、現在の静かな彼の文章から読み取ろうとするのは、彼のファンとして正しい態度なのかはよくわからない。

川本が聞き出した戦争写真家ジェームズ・ナクトウェイの発言は興味深い。

「現場ではゆっくりと歩く。大きな声を出さない」

それが、相手の信頼を生むと。なるほどー。あ、さっそく啓発されておる。

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「タナーと謎のナチ老人」 ローレンス・ブロック著 創元推理文庫

2009-10-10 | ミステリ

Thecanseledczech01 「快盗タナーは眠らない」特集はこちら

いますね、身体のすべてがセックスでできているような女性。たとえ考え方がナチであろうと、男が決して抗することができない存在。こんな登場人物、60年代のスパイ小説でなければ顰蹙かいまくり。ちかごろはボンドガールですらそんなタイプはタブーだもんね。

で、彼女を利用したとんでもない方法で孤城から最低最悪の人間を救出するハメになるタナー。ラストの行動もまた60年代かも。

前作にひきつづいて東欧の政治情勢のお勉強にもなります。というか今では歴史か。どうしても他人を鼓舞してしまう“眠らない男”というタナーの設定はつくづく笑える。

しかも妙にさめているあたりは伊坂幸太郎ファンにうってつけでは。彼自身も「ブロックの『殺し屋ケラー』を死ぬまで読んでいたい」と告白しているようだし。

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