DVDで見終わって、急いでもう一度最初から見直す。なにか、大事なことを見過ごしてはいないかと。それほどに、すばらしい作品だった。
如才なく、世の中を軽く渡っている大学生の恒夫(妻夫木聡)と、足が不自由で祖母に「こわれもの」と呼ばれながら乳母車で“散歩”をするジョゼ(池脇千鶴)の恋物語。
「どあつかましい男やな」
と悪態をつかれながらも、毎朝ジョゼの家に朝飯を食べに来る恒夫。和食のすばらしさをこれでもかと描く犬童一心の演出がいい。ジョゼのつくる朝飯は、とにかくひたすら美味しそうだし、誰にむかって食事をつくるかの変遷がこの作品のキーになっている。
原作は田辺聖子。彼女の作品が映画化されたことってあるのだろうか。かなりエロティックなお話なのは、田辺の本領のはず。もっとも、原作とはかなり違った設定にアレンジされているし、セリフもほとんどオリジナルになっている。
池脇千鶴の“陰鬱な関西弁”が耳に残る。とっぽい恒夫の共通語との対比がうまい。
「なんであんたにゴミ出しのことでゴチャゴチャ言われなあかんねん」
こんな会話で恒夫とジョゼのラブシーンは始まる。
「帰れって言われて帰るような奴ははよ帰れ!」
ジョゼとしては、せいいっぱいの求愛。
「おれは……となりのエロオヤジとは違うし。」
「違うの?……どう違うの?」
ここから、あの池脇千鶴が、と絶句するようなベッドシーンが……。
手練れの監督と脚本(渡辺あや)のことだから、身障者と健常者が苦難をのりこえてハッピーエンド、と単純にはいかない。恒夫を愛する女子大生(上野樹里)は本気でジョゼに嫉妬し
「あの人(恒夫)……そんなご立派な人と違うもん。正直、あなたの武器(障害)がうらやましいわ」
と平手打ちする(ジョゼもカウンターで返す)。庇護されるべき身障者というパブリックイメージを一掃し、身障者と結ばれる好青年という恒夫をもまた、この作品は持ちあげてはいない。聖なる気持ちの持ち主が、いい加減な大学生にすぎないあたりの描写は(あのラストも含めて)力強い。
「そしていつかわたしもまた、あなたを愛さなくなるだろう」
サガンの小説に仮託した現実。その重さを引き受けて“疾走する”ラストシーンのジョゼの姿がこの映画を傑作にひきあげた。
妻夫木聡、池脇千鶴、上野樹里、新井浩文、新屋英子……みんなすごい演技。オープニングにはなんと真理アンヌがっ!彼女の名に反応するのは中年男だけだろうけれども。ぜひ。ぜひぜひ。