「世界」や「中央公論」などに連載された原稿が多いためか、かなりジャーナリスティックに読者を啓発する内容になっている。もちろん川本三郎こそジャーナリストそのものであるわけで、いわばフランチャイズで仕事をしているのだろう。でもわたしは、現代最高の映画評論家である川本の芸のありかは、もっと別のところにあるのではないかとも思っている。
川本の慎み深い芸は、哀しいことに彼の奥さん(川本恵子)が亡くなってしばらくたってからのキネ旬の連載において炸裂した。妻を失った哀しさを、一本の地味な映画に託してそっと語り、以降は何ごともなかったかのように連載を続けている。都会人のたしなみというものであろう。
苛烈にして政治的だった来歴を、現在の静かな彼の文章から読み取ろうとするのは、彼のファンとして正しい態度なのかはよくわからない。
川本が聞き出した戦争写真家ジェームズ・ナクトウェイの発言は興味深い。
「現場ではゆっくりと歩く。大きな声を出さない」
それが、相手の信頼を生むと。なるほどー。あ、さっそく啓発されておる。
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