今はむかし。NHKがゴールデンタイム(!)に「マンガと小説」を対比した討論番組をオンエアしたことがある。そのなかで、マンガ推進派は「権力と切り結ぶのはマンガの方だ」と主張し、小説派はそれに対して「なにを馬鹿な」と鼻で嗤っていた。
若かったわたしは、もちろんマンガ好きだったから、小説派のいかにもマンガを見下したような態度には腹が立った。
が、今は少し違う思いでいる。
マンガの特徴は、具体的な(例外もあるけれど)絵を使ってストーリーを展開させるので、読者の情緒をゆさぶるのはむしろ簡単だ。しかも産業化が小説に比べてはるかにすすんでいるので(というより商売としての文学がほぼ死滅したので)読者に迎合しないでいる方がむずかしいのではないか。
そして、だからこそ白土三平の諸作はすばらしいのだと思う。特に「カムイ外伝」は、たちの絶望を延々と描き続け、凡百の小説など蹴散らしている(わたしはビッグコミック連載分しか読んでいないけどね。連載が再開されるとなったときは大騒ぎだった)。
で、映画のお話。監督崔洋一、脚本宮藤官九郎、主演松山ケンイチ。このメンバーに期待するなという方が無理だ。しかも大後寿々花も出演するので松山ケンイチとの「セクシーボイスアンドロボ」のコンビが復活。菊地凜子が負傷して役を降りたら、代わりはなんと小雪!謎の絵師を演ずるのはなんとなんと頭脳警察のPANTA。どうなってんだこの映画。そしてそして、それでも面白くなかったんだよなー(T_T)。
いづな落としなどのアクションもがんばっているし、CGもそれなり。土屋アンナは邪悪なサロメっぷりが素晴らしかった。領主の馬の足を斬るという魅力的な物語でありながら、それでも、弾まないのだ。
後ろの列にずらりと並んだ女子中学生たちは、
「わかった?」
「寝ちゃった」
と正直に語っていた。中年男としては、むしろこのお姉ちゃんたちをまったく無視して、ひたすら政治的映画にしてもらった方がよかったのではないかとすら。映画はマンガ以上に情緒に訴えやすく、産業化が進んでいるのでむずかしい話ではあるだろうが。