Bambooさんのリクエストにお応えして。
2008年4月27日 日曜日。
東京は東銀座の歌舞伎座において、区民と在勤者のアマチュア管弦楽団と合唱団とによってベートーヴェンの交響曲第九番が演奏される、今日はいよいよ本番当日。
午前10時30分、楽屋入り。
総勢270名の大合唱団の楽屋は地下食堂「花道」。
女性陣の着替えは、地下食堂奥のそば処。
このへん、歌舞伎座に通いなれた向きには、「ぷ。」とほほえましい部屋割り。
午前11時30分、舞台への大移動開始。
あまりの人数の多さに、合唱団はナント歌舞伎座外の一般道から舞台袖へ。
いったん正面から外へ出て、楽屋口への歩道をぐるりと左右2列で行列。
楽屋口から中に入れば、「成田屋」「中村屋」などと記された道具箱がずらりと積み上げられている。
うぉぉ、ホンモノの楽屋口だっ!!
整列したまま廊下でしばし待機。
見上げた天井には古びた電線やらすっかり色の変わった布張りのクラシックなスピーカー。
う~ん、さすがに古い。
正午、舞台袖からいよいよ舞台へ。
下手袖から上手へと暗いセット裏を横切る。
「五月 渡海屋 中央」「浮かれ心中 左」
などとマジック書きされたセットのふすまが整頓してずらりと立てられているあたりを過ぎると、
さらに広い大道具置き場に、どこかで見たことのあるタッチの背景やら桜の木やら。
足元を見れば、回り舞台の半円の切り込みのスキマから下が見える。
うぉぉ、舞台裏だっ!!
そしていよいよ舞台へ。
合唱団用に舞台奥にでーんと聳え立つひな壇には、発泡スチロールと白いベニヤ板でベンチがずらりとしつらえられ、座面には2センチほどの厚さの黒いクッション材が敷き詰められている。
今回の第九演奏、合唱団は第1楽章から座りっぱなし。
お尻が痛くなることは覚悟の上だったから、思わぬ心遣いにみんなで感激!!
午後12時30分、並び位置確認につづいて第四楽章の最終リハーサル開始。
チョン、チョン、と、“直しの柝(き)”が入ったのに合わせて、下手から上手へ、スタッフ3人がかりで定式幕が開けられる。
うぉぉ、人力だっ!!「おおぉーっ!」
幕が開いてみれば、合唱団からいっせいに感動の溜息がもれる。
たぶん生きてる間に最初で最後の、歌舞伎座の舞台の上から見る客席。
2階の最前列で孝夫さんの『俊寛』を観劇したあの日、幕が引かれる最後の瞬間まで涙を流して迫真の演技中の孝夫さんと目が合った。
あれは気のせいなんかじゃなかったんだ、
この距離なら、きっとあのとき、孝夫さんの目にはヒイラギの顔が映ってた。
うぉぉ、感動だっ!!
いざ歌ってみれば、あまりにも奥まっているせいか、思ったほど音は響かない。
かといって、自分の声も聞こえないほど音が散ってしまうわけでもない。
ソリストさんたちの声量をもってしても、いつもより一段おとなしく聞こえる。
花道から華々しく登場するバリトンさんの歌いだしすら、カラッポの劇場内にこもりぎみ。
客席に人が入ったら、もっと音は吸われるに違いない。
しかしそんな音楽人的懸念より何より。
とにかく暑い・・・!
歌舞伎座のスポットライトって、さすがにキョーレツ。
なんてったって、ご高齢の女形お姫様のシワだって吹き飛ばしてしまうくらいの照明技術が、はりきってパワー全開。
そりゃー暑いわなー。
最上段に立つヒイラギなんぞ、他の誰よりもライトに近い。
灼熱地獄である。
歌舞伎の衣装をつけた状態で、この舞台で動き回ってる役者さんたちの体力って・・・。
ひえぇ・・・。
マエストロも、歌舞伎座のステージマネジャーさんも、平均年齢の高い合唱団ににわかに口をすっぱくして注意を促しはじめた。「気分が悪くなった人は、演奏中でも構いませんから、絶対にガマンしないで、倒れないうちに早めに袖に出てきてください!」
歌より何より、体力的な問題に若干の不安を残しつつ、後編につづく。
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