これまでの紙づくりは,素材にする植物がほんとうに紙になるのかどうかを確かめるのが話の中心になっていました。その結果,大きさが大部分葉書か栞サイズにとどまっていました。
しかし,実際は紙をつくるとき,出来上がった紙をなにに使うのか意識しているはずです。実用性にかかわる話です。出来上がるなにがしかの作品を連想しながら紙の大きさを考え,活用を描いて材料を選択するのが,本来の姿でしょう。
それで,今回は箸袋をつくろうと思って,材料を選ぶことにしました。箸袋をつくるには,条件としてはたとえば薄く漉ける,折れに強いという点が欠かせません。それで,一般的に通用する材料としてイネ科植物を使うことにしました。いちばんに浮かんできたのがオヒシバ。オヒシバは別名チカラグサとも呼ばれ,夏の代表野草例の一つです。
畑でオヒシバを採集し,およそ5時間煮ました。この草はほんとうに頑丈なほどの強さをもっています。茎は扁平型。葉も茎も,真夏の陽射しをちっとも気にすることなく,ぐっと踏ん張って生きています。手で千切ろうとしても,なかなか。それだけ,強い繊維がある証拠なのです。それを知ると,煮る時間が長くなるのは当然と思えてきます。
5時間煮ると,全体としてはかなり柔らかくなります。茎の下の方はまだまだ硬い感じがしましたが,今回はそれで加熱処理を止めました。これから初めて体験されるという方には,茎を使う場合は先の方だけ使うことをお勧めします。
叩解過程では,①杵だけで砕く,②ミキサーを使う,この2つの方法を使い分けました。①の繊維には長短多様な繊維が混ざることになります。一方,②では短めの均一の繊維ができます(下写真)。箸袋には②が適しています。
細くて,強度のある繊維が取り出せたことにより,最終的に願いどおりの紙がつくり出せました。
なお,薄い紙は,流し込む紙料を少なめにします。「これで大丈夫かな?」と心配になるぐらいがちょうどいいでしょう。うんと少なめにすればコピー紙もできます。
①の繊維で漉いた紙は下写真のようになりました。
オヒシバは厄介な雑草という側面をもっている反面,このようなすてきな利用価値があるのです。