タンポポは春の花とは限っていません。一年中咲いています。とりわけ,わんさかと咲き誇るのが春なのであって,四季を通して咲くというのがこの植物のおもしろいところ。
ただ,冬のタンポポは,ほとんどが外来種セイヨウタンポポです。在来のニホンタンポポは基本的には昆虫の手助けがないと受粉できないのに対し,セイヨウタンポポはまことにしたたかな戦略の持ち主で,受粉してもしなくても結実するのです。つまり,虫が訪れなくてもちゃっかりと実を結ぶしくみを備えているというわけです。
写真は2月に撮ったセイヨウタンポポの種子です。充実しているように見えます。
下写真は,つい先日写したセイヨウタンポポです。昆虫のお蔭で,花の一部が受粉できそうです。
受粉して結実する,しなくても結実する,この差はじつは大きな意味があります。 繁殖能力に秀でたセイヨウタンポポの生き方はあっぱれという印象を持ちますが,事情はそれほど単純ではありません。
受粉せずに結実するのは,挿し木などと同じ類いで,親の形質をそのまま受け継ぐことになります。それは,場合によっては生き残り戦略としてはたいへん危険でもあります。なにしろ,致命的な環境下におかれたとき,全滅する恐れがあるのですから。
受粉結実する場合は,媒介昆虫によって他の花の花粉が運ばれてくる確率が高くなります。これによってできた種子は,親の形質に近いものを有しているものの,微妙にそれとは異なっているために,遺伝子の多様性を確保できることになるのです。
多様であるということは,それだけ環境への適応が柔軟でありうるということです。致命的な事態が発生しても,必ず一部の子孫は残されていきます。在来種は外来種ほどに種子を生産しなくても,環境の変化に合わせながら堅実に子孫を残し続けるでしょう。
冬は訪花昆虫がほとんどいないといった感じなので,咲くのは自ずとセイヨウタンポポ。これが正解なのですが,在来種もときには見受けられます。稀に昆虫が訪れて受粉が完了するか,あるいは万一に備えた保険(自家受粉)を使って種子を生産するか,それとも受粉を果たせずに終わるか,いずれかでしょう。
実際,我が家の近くの道端を観察していくと,今でも在来種が咲いていますが,じつに弱々しい綿毛です。結実までにはたぶん至らないと思われます。