らんかみち

童話から老話まで

お爺ちゃんのビーナスは仏との和解の証

2009年05月28日 | 陶芸
 古道具屋めぐりしてバイオリンやカメラを探していたのも今は昔。最近では陶磁器なんかに目を奪われるようになって、写真のような徳利を買ってしまいました。
「先生、これは磁器だと思うんですが、いったいどんな手法で作られたものでしょう」
 300円で買ったことは伏せて陶芸クラブに持って行って尋ねたところ、思いがけずお爺ちゃんたちに受けたようです。
「うむっ、これはまさしく磁器じゃ。おそらくは型にはめて作ったものでしょう」
「しかし先生、型を外すのは良いとして、くっつけた跡が外側はもちろん内側にも見当たらないんですよ」

 二つの割り型から作ったに違いないんですが、非常に巧みにできていて他の手法、たとえば紙人形のようなものの上を粘土で覆って、焼いたら紙粘土は焼失するといったやり方なのかわかりません。もっともそんな方法にしたって、紙人形を作るのにはやはり型がいるし……。
 
「君ぃ、手捻りの達人ならこの程度のものをこしらえるのは造作も無いこと、見ていたまえ!」
 ぼくがうっかり口を滑らせてしまった言葉、それともこの徳利ビーナスがストイックのアウト・オブ・バウンズにいるであろうお爺ちゃんたちの創作意欲を刺激したのか、一斉にレプリカ製作が始まってしまいました。
 
 徳利ビーナスの行く末はさておき、クラブの皆さんは先週からの「バラ祭り燃え尽き症候群」をまだ引きずっているのか、ぼくの回すろくろの前に来て話かけてくれたりしてさっぱり集中できません。大皿も徳利も失敗する有様で、湯のみ一つが形になっただけ。ところが終わってみると、電動ロクロがそれほど汚れておらず、服も顔もいつもなら泥だらけなのに綺麗なもんです。
 
 もしかしてぼくも腕が上がったか? 三々五々退部する人を見送ってほくそえみつつふと見ると、お爺ちゃんたちは嬉々としてオブジェに取り組んでいます。
「む、難しそうですねぇ」
「うむぅ、オッパイはやはり難しい……」
 ああでもないこうでもないとやっていた一人のお爺ちゃんが、
「儂が前にこしらえた最高傑作は、お寺に奉納したんじゃが、あれはどうなったかのぅ……」
 なにやら女体をモチーフにした作品を菩提寺に納めたらしいけど、お寺の境内でそんなの見かけたことないので、どんなものかちょと興味を惹かれました。
 
 お昼時になって皆さんが引き上げ、最後のぼくが教室を閉めようとしていたら隣の部屋で会食が始まり、そこへなんと菩提寺のご住職が。法話にでも来られたのかもしれませんが、これ幸いと聞きました。
「○○さんがお寺に奉納なさった作品とは?」
「あぁ、数年前にいただいた……あれは、あれはそう、秘仏、ですかね……」
「ひ、秘仏? あ、つまりご開帳不可能と……」
「そう、秘宝、の響きの方がより分かり易いかと……」
 どうやらエロチシズムの横溢したあられもない姿態のオブジェを奉納したらしく、倉庫の奥深くに鎮座しておられるのだとか。おそらくは仏との和解を済ませたであろうお爺ちゃんの、タガの外れた作品をますます鑑賞したくなりました。陶芸はかくあれかし、自由自在が良いようです。