らんかみち

童話から老話まで

神様、自動車学校さま お許しください

2006年10月29日 | 童話

 また罪を犯してしまいました。神様、今私は悔いております。私は激しく泣いております。どうか私を、この涙のゆえにお許しください。どうかもう一度私に振り向いてください。

 酒盗り友の会の連中を「昼飯を食いに行こう」と、そそのかしましたら、ある者はタクシーで、ある者は電車とバスを乗り継いで、ある者は自転車で駅前に集合したのです。それだけでも大きな罪に問われそうですすが、まだそこから20分もバスに乗って、さらに10分歩かせました。

「これで飯が不味かった日にゃ、それ相応の覚悟は出来ておろうな?」

 三人さんは、お腹もすいていることもあり、苛立ちの声を私に浴びせてきます。人というのは、達成感の無い、目的の不明な労働ほど我慢ならないものはないのでしょう。彼らのもっともな憤りに、このとき私はどんな仕打ちをも甘んじて受ける覚悟をしたのでした。

 目的のうどん屋さんはすぐに見つかりました。田舎風の建築様式の、かなり大きな店構えではあるのですが、詳細に造りを吟味しますと、案外安普請であることが分かります。

 ところがこの店の最大の特徴は、いわゆる大広間のようなものが無く、4人から6人くらい入れるが個室いくつも用意されていて、見かけは長屋でもそれぞれは孤立しているので、入り口のカーテンを下ろせば誰にも邪魔されることなく食事を楽しめるというところなのです。

 4人部屋に通され、うどんを注文をする前に、初めて私は三人の会員に今回の目的を告げたました。

「この店が絵本の原稿を公募しておる。そこでこの原稿用紙に、私が諸君のために書いてきた童話を書き写すべし。あわよくば豪華景品の享受に与るであろう」

 これを聞いて、三人は激昂してテーブルをひっくり返すかと懸念しておりましたら、

「これをそのままコピーしたらええわけやな。これ即ちコピーライターという」

と、テーブルが作り付けでひっくり返せないこともあってか、それとも豪華景品につられてか、意外にも楽しそうに書いて、そのまま店に提出したのでした。

 うどん屋を後にしてその町を散策し、4時ごろに駅前の立ち飲みで豪華景品当選祈願をして乾杯しましたが、問題はその後なのです。ほろ酔い加減になったころ、さてどうやって我が街まで帰ろうかと思案することになりました。

 土曜日ダイヤでバスの本数は少なく、さりとて同じ程度の出費であっても、タクシーに乗るのは潔しと出来ない我々なのです。

「じゃあいっそのこと、自動車学校の送迎バスに乗せてもらいますか?」

 冗談のつもりで口を滑らした私が悪うございました。というより滑らせた相手が悪かったのでございます。

「それええやんけ! それでいこやないけ」

 かくして我々は、方角の違う一人を除き、夕闇にまぎれて恥知らずにも自動車学校の送迎バスにもぐりこんだのでした。酒臭い我々にとって幸いだったのは、我々の他にお客さんは一人(それも同じ駅で降りる)しかいなかったことでした。

 見ず知らずの振りをして、互いに分かれて椅子に座った我々のところに、運転手さんが行き先を尋ねてきたときはさすがにびびりました。どう見ても免許を返上しないといけないような年齢の御仁や、いかにも酒やけした赤ら顔の連中が送迎バスに乗っているなんて不自然極まりないことです。

 送迎バスがわが街の駅に着いて、運転手さんに丁重なお礼を申し上げてからバスを降りたのですが、何のお咎めも無かったのは「ついてる百回そんぐ」の霊験だったのでしょうか。

「馬鹿者! どこに引け目を感じることがあろうか。空気を運ぶよりマシな事ではないか。我々はたった今、地球温暖化防止に貢献したのである」

と、酒盗りの先生はのたもうて、まるで北朝鮮が核実験を強行して舞い上がっているように、誰彼無く勝ち誇ってかの暴挙を吹聴して回るのでしたが、私はあの自動車学校に足を向けて寝られません。バイクの大型免許を取りに行くときには是非あの学校にお世話になり、少しでも恩返しをしたいと思っております。ア~メン!