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■Finish and Begin 夕張市美術館の軌跡1979-2007、明日へ(3)

2007年03月27日 22時32分28秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
(承前)

 つづいて「応援作家展」。
 美術館が、夕張ゆかりの作家や、同館でかつて展覧会をひらいた作家などに協力を呼びかけたところ、多くから快諾の返答を得た。
 また、独立展・全道展のベテラン会員、竹岡羊子さん(札幌)が、道新の事業局長とともに同館をおとずれ、なにか協力させてほしいと申し出るなど、輪が広がり、80人規模になったという。

 その結果、さまざまな傾向の、わりあい小さいサイズの作品がずらりとならぶ、独特の空間が出現した。
 大作がめじろ押しの公募展会場とも、ギャラリーたぴおのグループ展ともことなる、なんとも不思議かつゴージャスな空間なのだ。
 しかも、出品者の多くは、道内の第一線で活躍中の作家たちだ。

 道内作家ばかりのなかで、1人だけ、東京の、しかもけっこう著名な現代美術作家がいた。
 秋山祐徳太子。
 一般的には、「政治のポップアート化」を掲げて東京都知事選に2度立候補して落選した人物ということで知られているかもしれない。
 ブリキのオブジェや、赤瀬川原平・高梨豊と結成したライカ同盟も有名だ。
 会場には作品もあるが、その横にある朝日新聞のインタビュー記事が笑える。
 「グリコ」ならぬ「ダリコ」と赤く染め抜いたTシャツを着た本人の写真の横に、
「走れ! 夕張、大逆転!」
とサインされている。
 冷静に考えると、なにが大逆転なんだかよくわからないのだが(笑)、この手の激励もときにはいいんじゃないかと思う。クレージーキャッツの、
 金のないやつは俺のとこに来い。おれもないけど心配するな
-というのを思い出してしまった。わははは。

 秋山氏が今回出品しているのは、同窓(武蔵野美術学校=現武蔵野美大)の池本良三さんのつながりである。
 池本さんは苫小牧在住、全道展会員。
 以前、名刺をいただいたら、肩書に、自由人とあった。おもしろい方である。
 今回は「進め! 夕張(三銃士)」という小品の絵画を出品している。

 長谷川裕恭さんの作品も好きだ。
 厚みのある板の両端にひもがついて、ゲーム盤にもそりにも見える、箱状の立体だ。
 盤の上には、かぎ形や凸の字の形などをした色とりどりの木片がならび、赤い三角形の小さな旗のついた長い棒を手にした3人の人形が立っている。
 箱の側面には
「KIBOU」
「FOR YUBARI 2007」
と書かれていて、この作品が、夕張のために制作されたことを物語っている。
 長谷川さんは、日高管内平取町で(たぶん)学校の先生をしながら、いかに「彫刻らしくない」チープな素材で彫刻を作りだすか-ということを、一貫して追いつづけている。
 その姿勢は、あるいは、夕張のこれからに役立つかもしれない。

 応援作家展のコーナーの入り口で目立っていたのは、田中まゆみさんの立体「MEMENT-MORI」。
 いつものビデオモニターは無し。大きな卵が割れて、中から小さな卵がどっさり姿を現す-という作品だ。
 題名こそ「死を思え」だけど、作品それ自体は、再生を強く感じさせる。

 澤口紗智子「Line of sight in 旧夕張市立清陵小学校」
 閉校となった学校の教室の黒板に白墨で線を引き、それを写真に撮ったもの。
 コンセプト的には、先日のコンチネンタルギャラリー(札幌)での2人展とよく似ているが、こっちのほうが断然おもしろいと思う。 
 たぶん、じぶんの閉域にこもって線を引いてるよりも、外界に飛び出して線を引いたほうが、有意義な作品ができるんじゃないかな。
 
 作品リストにはないが、堀江隆司さんが「ズリ飛礫」という、市民文化祭の参加者と共同制作した作品を出している。
 夕張の現状に対するやり場のない怒りを表現したもの。遠くから見ると、ジャガイモが床にごろごろところがっているようだ。

 渡辺俊博「雪かきはハッピィ」
 夕張出身のイラストレーターの作品。道新の夕刊1面でも紹介されていた。
 炭住の雪かきを大勢で手分けしてやっている情景で、じつに細かい。絵のすぐ横にルーペが用意されていた(笑)。
 じっさいの雪かきは、こんなに楽しくないんだけど、なんだか心があったかくなる1枚。

 ほかにも、岡部昌生「夕張の子どもたち」は本展覧会にうってつけの作品だし、野又圭司「グローバリズムの暴力」は、大きなバージョンが夕張で初めて発表されたものだ。

 夕張と直接関係なくても、ブランクーシばりにシンプルな金属彫刻(米坂ヒデノリ「鳥」)、ユニークな陶芸オブジェ(林雅治「二つの重なった円筒」)、いつもと作風をがらりと変えて写実的な花の絵(高橋要「うすいオレンジのある水仙」)など、とにかくバラエティーに富み、飽きない展覧会だった。


出品作家は次のとおり。

秋山祐徳太子、有村尚孝、池本良三、伊藤光悦、今荘義男、江川博、大久保正義、小笠原実好、金子賢義、鎌田国子、日下康夫、小林和拓、清水章子、菅野充造、杉吉篤、高橋利蔵、竹田博、千葉邦子、堂間タマ子、中矢勝善、野口裕司、野崎嘉男、藤野千鶴子、真下紗恵子、三国丈、門馬よ宇子、横山隆、渡辺俊博、
荒井善則、
岡部昌生、
澤口紗智子、中川潤、真野朋子、ヨコタフミコ、
藤根凱風、中野層翠、我妻緑巣、山田太虚、三上山骨、三上雅倫、
天野澄子、中川晃、西山亮、
阿部俊夫、泉修次、國松明日香、首藤晃、鈴木吾郎、田中まゆみ、田村陽子、仲嶋貴将、楢原武正、二部黎、野又圭司、長谷川裕恭、林教司、藤本和彦、M.ババッチ、山岸せいじ、米坂ヒデノリ、
石山俊樹、石山幸子、大野耕太郎、尾形香三夫、鈴木勝、林雅治、堀江隆治、
花田由美、
阿部典英、川本ヤスヒロ、岸本裕躬、笹山俊弘、高橋要、竹岡羊子、玉村拓也、デュボア康子、中川克子、長谷川忠男、波田浩司、藤野千鶴子、村本千洲子、渡會純价


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2 コメント

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池本良三さんに哀悼 (根保孝栄・石塚邦男)
2011-09-10 11:04:27
全道展の名物画家・池本良三さんが2011・8・8日お亡くなりになった。30近くなって武蔵美大に学び、学生自治会役員として学生運動、アルバイトに米軍基地でバスを爪弾き長い足で女学生に大もてだった粋な伊達男だった。有名人の秋山祐徳太子とは美校時代の自治会の闘士同士の親友である。
若い頃は宴会部長として美術界に名を馳せていた。
美術教師としては全国的に名のある造形教育者であった。哀悼
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驚き (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2011-09-10 14:51:55
池本良三さん、亡くなっておられたのですか!
8月8日は夏休み中で、新聞のおくやみ面もじっくり見ていなかったのです。

まさに「全道展の名物画家」というのにふさわしいユニークな方でした。
ご冥福をお祈りします。

秋山祐徳太子さんの本にも登場してました。

http://www5b.biglobe.ne.jp/~artnorth/subbooks02b.htm
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