■「東京湾岸のねこたち」星野俊光写真展 (8月3日まで)

　猫や犬の写真にほとんど興味がない。
　自宅で飼ったことがないからかもしれないが、野良猫でも飼い犬でも、多くの写真からは「じぶんは犬（あるいは猫）が好き」ということ以外のメッセージがあまりつたわってこないような気がするのだ。
　でも、この写真展はちがう。
　猫が力強く生きている。飼い猫やマチの猫とちがって、人間にこびていない。マンガ「じゃりン子チエ」に登場する小鉄やアントニオJr.を彷彿（ほうふつ）とさせる。独立の気概を持った猫たちなのだ。

　草生した埋立地、人気の無い公園、生活漁港、忘れ去られた海水浴場
　東京近郊にぽっかり開いた隙間…
　ここで、人知れずひっそりと暮らす猫達がいます。
　彼らは、自らの意思で此の地にやって来たのではありません。
　捨てられたこの場所で、飼い猫の半分にも満たない一生を過ごします。
　可愛がられていた頃を思い出すのか、無心でじゃれてくる若い猫。
　かすれた声で甘える、まだ首輪の痕が残っている老猫。
　過酷な野良として此処で生まれた子猫達は、
　何故か声を出して鳴く事が出来ない。
　空腹の時は、海をぼんやり眺めて思う。自由に泳げたらと。
　縄張り争いに敗れた者は考える。カモメのように翼が有ったらと。
　でも、私は知っています。
　彼らは気高く、そして一生懸命に生きていることを…

　会場入り口に貼ってあった作者のことばだ。

　今回の展覧会では、三浦半島から千葉県にいたる東京湾岸ののらねこたちを、EOS５D、EOS 20D、EOS kiss DNのデジタルカメラ3台で追ったもの。
　絞り優先AE、マイナス3分の2補正で撮影している。
　真っ赤な夕日を眺める猫の背中、赤色灯を屋上に照らしたビル群をバックに疾走する猫、花火の光跡をバックに目を光らす猫など、夕方や夜のショットに印象的なものが多い。暗い環境に強いデジタルカメラの特性をフルに生かしているといえそう。
　漁船群を背景にきりりとポーズをとるヤツや、岩礁や漁船のある浜辺にひろがる花の群落のなかを歩いていく猫など、東京都心からかなり遠い場所で撮られたものもあるが、やはり印象的なのは、大都市からほんのちょっと離れた、都会とも郊外とも言えない場所でたくましく生きる猫たちだ。
　レンガ敷きの地面に長く伸びる猫の影や、雪の上を歩く猫の姿を見ていると、東京といえどきびしい冬が彼らにも襲うのだな－と、案じてしまう。

　考えてみれば、東京湾岸というのは、はんぱな場所なのだ。
　わたしたち北海道人には、羽田空港から乗るモノレールの沿線というイメージがあると思う。おそらくモノレールを建設した当時は海沿いだったのだろうが、度重なる埋め立てによって海は彼方に去ってしまった。
　というか、東京は海沿いにあるマチなのに、ぜんぜん海の存在感が無い。
　北海道だと、港の附近は護岸に覆われていても、その周囲は岩の浜や砂浜がひろがっているのがふつうだ。
　ところが、東京はコンクリートの護岸や倉庫やいろいろな施設が海岸線を覆っていて、ふつうには海にアクセスしづらい。
　たとえ海が見える場所に行き着いても、わたしたちがイメージする海とは似ても似つかない「水たまり」のようなところなのだ。
　だから東京人は、湘南とか三浦岬ということばに敏感に反応するのだろう。あんな遠くまでいかないと、海らしい海にふれることができないのだ。かわいそうに。

　そんな人工的で奇妙な空間でも、どっこい猫たちは生きている。


　作者は1963年群馬県生まれ、東京写真専門学校卒。

7月23日(月)－8月3日(金) 土、日、祝日休み　9：00－17：30
キヤノンギャラリー（北区北7西1　SE山京ビル 地図A　旧キャノンサロン)

□サイト「東京湾岸のねこたち」
□「WANGAN NEKO」ブログ

各キヤノンギャラリーの日程
銀座：3月15日（木）－20日（火) {日曜休館｝
福岡：4月9日（月）－20日（金）｛土日休館｝
梅田：5月17日（木）－23日（水）{日曜休館｝
名古屋：6月14日（木）－27日（水）｛土日休館｝　以上終了
仙台：8月27日（月）－9月7日（金）｛土日休館｝