散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

経済機構の内側を蝕むもの~「円高の代償」河野龍太郎

2014年10月04日 | 経済
黒田日銀総裁の異次元金融緩和政策は空砲であった。しかし、それだけではなかった。空砲の音によって、しばし平穏無事にいるなかで、戦力に磨きをかけることをせずに惰眠をむさぼって、遅れをとったのだ。
 『黒田バズーカ砲は華麗なる空砲か130424』

河野龍太郎は輸出偏向型社会に対して早くから警告を発していた。即ち、貿易の目的は、輸出で所得を稼ぐだけでなく、多用で質の高い財・サービスを安価に入手する手段でもある。
 『「円安・公的需要・低金利」の経済140223』

今回の論文で、河野は更にアベノミクスにおける円高アレルギーが日本の経済機構の内部を蝕んでいることを指摘し、その「高すぎる代償」を早期に解消する施策「経済が完全雇用に近づいているため、極端に景気刺激的なマクロ安定化政策を早く方向転換、即ち、先ずはテーパリングを実施すべき」を提言する。

それは「実質ベースで超円安、海外経済が回復局面…しかし、輸出は全く増えない」「円安は、輸入物価上昇→家計の実質購買力を抑制→個人消費の足を引っ張る」「マネタリーベース目標達成のため、日銀がマイナスの実効金利で短期国債を買うことも、円安を助長…量的・質的金融緩和の弊害は日増しに大」。

「デフレからの完全脱却の一点に的を絞るなら、総需要政策は妥当かも…」、しかし、「その政策は、財政面で危険な賭け…資源配分や所得分配の歪みを大きく…潜在成長率の回復を悪化…アベノミクスの帰結はインフレ率上昇と潜在成長率低下、つまりスタグフレーションになる」、以上が概論だ。

続いて、「資源配分を歪めた追加財政」「過度な金融緩和も成長分野の出現を阻害」「超円安が摘み取った変革の可能性」「消費回復が進まない理由」と順に分析が続く。その中で、追加財政、金融緩和、超円安、所得配分の歪みによる消費回復の遅れに関して経済機構の内部を蝕む負の効果をもたらすことを鋭く指摘する。

最後に「成長率が低いのは、財政政策や金融政策が不足しているからではなく、それらを過度に追求した結果、潜在成長率が大きく損なわれているためである。特に極端な金融緩和を長期化・固定化させる副作用は、広く薄く経済を蝕むため、政策当局者を含め多くの人が見過ごしているのではないか、心配である。極端な金融緩和を前提にした経済主体が増えれば、収益性の低いビジネスばかりが増え、ますますゼロ成長から抜け出すことができなくなる」と結ぶ。
以下、個々の論点をまとめてみる。

追加財政、河野の仮設は「労働力の減少による潜在成長率の低下を補うべく、技術革新が促され、資本蓄積が進む。…しかし、極端なマクロ経済政策が長期化…潜在成長率に対する寄与度は低下傾向を続けた」。即ち、
「社会インフラ整備は、生産性向上や利便性向上のため、…しかし、一時的な景気かさ上げに繰り返し使われた…実態は限りなく政府消費に近い。…追加財政によって便益を受けた地域・産業が、財政資金を入手…改革が遅れ、自立が長期的に困難に…成長のためではなく、財政資金獲得のために経営資源が投入…政府のサポートが大きい産業の生産性上昇率が低い原因となる。…政府のサポートで退出を免れた衰退産業…人的資源などの経済資源を囲込む…他分野での新成長企業の出現の芽を摘む…潜在成長率は押し下げられた可能性が高い」。

金融緩和政策も潜在成長率の回復を阻害。「…日銀のゼロ金利政策と国債購入政策が長期化・固定化…民間金融機関の国債購入が助長…成長分野への資金供給が阻害…民間金融機関は日銀が買い支える国債を購入するほうが利幅は薄くてもリスクは遥かに小さい…成長企業は自生的に出現するのではなく、銀行マンが企業家をサポートすることで、日の目を見る。それがイノベーションのメカニズムだ。しかし、資金は国債に流れ…成長分野の出現が阻害…潜在成長率は低迷」。

「…日銀が大量の国債購入…金利上昇圧力は全て吸収され、金融市場が持つ、将来の経済の姿を先読みするフォワードルッキングな能力や、財政膨張への警告を発する能力は封殺されている」。

「超円安について…日本では極めて円高アレルギーが強く、企業が海外へ生産拠点をシフトさせることを否定的に捉える。…海外に生産拠点をシフトする最大の理由は、少子高齢化によって安価な若年労働力を安定的に確保できない…製造業の稼ぐ方法が変わる…限られた労働力を主に非製造業へシフト…動きに抗おうとマクロ安定化政策…資源配分に大きな歪みをもたらすだけ」。

「消費回復が進まない理由…雇用者所得の源泉が輸出増…輸出回復を中断させないことが最優先…金利上昇や円高の回避が選択…所得分配面でも大きな歪み…個人消費の回復を必要以上に阻害している」。