散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

「分業嫌い」の総合メーカー意識~「日の丸」半導体の凋落・西村吉雄

2014年10月13日 | 経営
半導体企業の売上高順位の歴史的推移を先の記事で示した。台湾ではTSMCが「ファウンドリ」事業モデルを確立し、設計・開発に専念する「ファブレス」企業も存在感を高めていた。
 『凋落した日本の電子産業140930』

グローバルな分業の時代に孤島で、孤事業に固執していた日本の半導体事業を描いている(2014/8/21)。経営判断の誤りは日本の大企業文化の一端が電子産業の変革期に顔を出したのだ。以下、西村氏の論考を引用しよう。

「1980年代後半から電子産業では新たな分業が発展した。
(1)工場を持たないテレビ・メーカーを実現した米ビジオ、
(2)アップルの「iPhone」をめぐるグローバルな分業、
(3)パソコンにおける水平分業、
更に、半導体産業において、設計と製造の分業が盛んになった。

ファブレスとファウンドリの分業
「半導体分野で設計と製造を別々の企業が担うという分業が発展する。半導体工場を持たない「ファブレス(製造工場を持たない)」の設計会社と、半導体製造サービスに特化した「ファウンドリ」による分業、これが次第に広まる」。

「純粋のファウンドリは、自社ブランドの半導体製品を持たない。その意味で、ファウンドリは製造を受注するサービス業であって、メーカーではない。製品ブランドは発注者(ファブレス設計会社)が持つ。製造工場を持っていなくても、「メーカー」は発注者である。製造者責任も発注者に帰する」。

「日本のメーカーは、この設計と製造の分業を嫌った。設計と製造を統合した事業形態(IDM:Integrated Device Manufacturer)に最近まで固執する」。
しかし、ファブレスとファウンドリの存在感は大きくなり、これが日本半導体産業の衰退の一因、と西村は指摘する。

「2013年の半導体売上高調査では、米インテル、韓国サムスン電子に続いて、3位は台湾TSMC、4位はファブレスの米クアルコムが占める。成長率はファウンドリとファブレスが高く、統合メーカーは低調だった。中期的にも両者の成長率が統合メーカーより高いと予測されている」。

「パソコンからモバイル機器への市場転換は、インテルの存在感を小さくし、ファブレス企業の躍進に繋がる。ファブレスの躍進はファウンドリに有利に働く。ファブレスとファウンドリの組合せは、存在感をますます大きくしている」。

「集積回路「設計と製造」の関係は、雑誌「編集と印刷」の関係に似ている(下図)。



最大の理由は減価償却費(製造装置と印刷機)だ。本の編集者(=設計者)の最大の仕事は「読者の要求」を探り当てること、大きな装置は不要だ。
 
「ファウンドリは、多数の会社から受注し、製造ラインの稼働率を上げ、投資の償却を図る。門戸を開いて製造を引き受け、装置の稼働率を上げる」。

「製造技術が高度化し、製造装置は高額になり、半導体製造工場への設備投資は巨額になる。その減価償却が半導体製造における最大のコストになる。その巨額の設備投資、これを一社の製品だけで償却できるか?」「インテルには可能、またメモリーのサムスン電子も何とか。しかし、その両社もファウンドリ事業に乗り出しているが現実だ」。

そこで、「分業を嫌った減価償却コストへの低意識」と西村は云うが、やや唐突の感は免れない。単純な数値で、それも主要コスト、意識が低いことは有り得ない。技術者に関しては、製品の完成度に対するコスト意識だろう。
経営者にとっては、投資時期との関連だ。

それよりも企業経営上のIDMへのこだわりだ。それは製造へのこだわりなのだ。西村の云う出版社と印刷会社の関係は圧倒的に出版社上位であろうが、日本の半導体事業は、製造で稼いでいるとの意識が強い。主流はものづくりなのだ。