今回は、『ヒトの特徴』の内、4.S字状の脊柱・5.腰・6.下肢・7.足のアーチをご紹介します。
4.S字状の脊柱
脊柱は、背骨とも呼ばれます。この脊柱は、頭の側から、頸椎・胸椎・腰椎・仙骨・尾骨からなります。一般的に、四足歩行の哺乳類や霊長類では、この脊柱はまっすぐです。ところが、直立二足歩行のヒトは、S字状の形をしています。
これは、歩行の際に足から伝わってくる衝撃が脊柱を通って脳に直接届かないようにするためです。つまり、「S」字状になることにより、足からの衝撃を少なくする効果があります。
興味深いことに、「反省ザル」でも有名なニホンザルでは、二足歩行をさせるため、S字状に形が変わってきていることが知られています。この研究は、元関西医科大学の葉山杉夫先生によります。
ここは、ヒトとチンパンジーの脊柱の模型を展示し、さらに、葉山杉夫先生から提供していただいた「反省ザル」の脊柱のX線写真を元にパネルで展示しました。
群馬県立自然史博物館150.「S字状の脊柱」(*画像をクリックすると、拡大します。)
5.腰
四足歩行を行うサルの骨盤(左右寛骨と仙骨・尾骨から構成)の内、寛骨は前後に長い形をしています。一方、直立二足歩行を行うヒトの骨盤は、バケツのように、内臓を支える形をしています。この形は、すでに、猿人も同じです。
ここでは、ヒトとサルの寛骨と、ヒトの男女の骨盤の違いを、模型で展示しました。ちなみに、ヒトの骨盤模型は、ドイツのソムソ社製を使用しました。チンパンジーのものは、アメリカのフランス・キャスティング社製の全身骨格をばらして使用しています。また、猿人の寛骨は、私が所有していたレプリカを提供しました。
群馬県立自然史博物館151.「腰」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)
6.下肢
下肢を見ると、四足歩行のチンパンジーは、大腿骨も脛骨もまっすぐです。チンパンジーが二足歩行をすると、左右に大きくゆれて歩きます。ところが、直立二足歩行を行うヒトでは、大腿骨が斜めについています。そこで、ヒトでは左右にゆれて歩くことがありません。アファール猿人の下肢も、ヒトと同様です。
群馬県立自然史博物館152.「下肢」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)
7.足のアーチ
ヒトの足には、土踏まずと呼ばれる部分があります。これは、直立二足歩行をするヒトのみが持つ特徴です。ヒトの土踏まずの部分は、アーチになっており、体重が足の1点に集中せず分散するようになっています。扁平足のヒトは、足のアーチが少なくなっているため、体重が1点に集中することから、疲れやすくなるというわけです。
ちなみに、哺乳類の歩行は、蹠行性(ヒト・サル・クマ・ウサギ等)・趾行性(イヌ・ネコ・キツネ等)・蹄行性(ウマ・ウシ・シカ等)の3つに分類されます。
1.蹠行性:つま先から踵までを地面につけて歩く方法です。
2.趾行性:踵は地面に付かず、足指だけで歩く方法です。蹠行性よりも速く移動できます。
3.蹄行性:爪先だけで歩く方法です。蹄を持つ動物(有蹄類)の、奇蹄類(奇数の蹄を持つ動物)と偶蹄類(偶数の蹄を持つ動物)の歩行方法で、最も速く移動することができます。
法医人類学の分野では、直立することが多い「クマ」の足の骨がヒトと良く似ていることが有名で、よく同定ミスがあります。しかし、クマの足には、ヒトのようなアーチはありません。
群馬県立自然史博物館153.「足のアーチ」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)
このコーナーで、大変参考になる本をご紹介します。この本は、以前もご紹介しましたが、元関西医科大学の葉山杉夫先生が1996年に、PHP新書080としてPHP研究所から出版された『ヒトの誕生』です。葉山杉夫先生には、今回ご紹介した内、「S字状の脊柱」で展示協力をお願いしました。本書の第3章には、その猿回しとS字状彎曲についての記述があります。私は、出版時に、葉山杉夫先生から寄贈していただきました。
ヒトの誕生―二つの運動革命が生んだ〈奇跡の生物種〉 (PHP新書 (080))
価格:¥ 693(税込)
発売日:1999-05
本書の内容は、以下のように、全9章からなります。
- プロローグ
- 第1章.霊長類へ、38億年の旅
- 第2章.樹上で起きた第1回運動革命
- 第3章.ヒトが誕生した第2回運動革命
- 第4章.二足歩行から始まった脳の巨大化
- 第5章.ヒトはなぜ話すのか
- 第6章.ミッシング・リンクを求めて
- 第7章.アウト・オブ・アフリカ
- エピローグ.ヒトはなぜ生まれたか
著者の葉山杉夫先生は、日本モンキーセンター・京都大学理学部・東北大学歯学部等で主に霊長類の比較解剖学をご研究された方で、本書には、そのご経験が詰まっています。