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人類学のススメ

人類学の世界をご紹介します。OCNの「人類学のすすめ」から、サービス終了に伴い2014年11月から移動しました。

私の仕事・英文論文3.港川人:東アジアにおける最古のホモ・サピエンス

2011年05月21日 | B3.私の仕事:論文・英文[My Work:Pap

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第四紀研究第30号第3号別刷り表紙(*画像をクリックすると、拡大します。)

 この論文「Minatogawa Man, the Oledest Type of Modern Homo sapiens in East Asia」は、第四紀学会が出版している、『The Quaternary Research』の第30巻第2号のp.221~p.230に掲載されました。1991年7月に出版されています。

 国立科学博物館(当時)の馬場悠男先生と私との共著です。

 この第30巻第3号は、国際第四紀学連合[INQUA(The International Union for Quaternary Research)]の特集号で、層序・テフラ・古地磁気・地形・古環境・古脊椎動物・古栄養等の論文が掲載されています。

[論文要旨](オリジナルの論文には英文要旨のみで和文要旨はありませんが、以下は私が意訳したものです。)

 1970年に沖縄本島で発見された港川人の形態を再検討した。港川人の頭蓋骨は、低く幅広い顔面部・長方形の眼窩・突出した眉弓部・鼻根部の陥凹・大きい側頭窩等の特徴を有している。これらの特徴は、中国で出土している後期更新世の周口店上洞人と柳江人や日本で出土している完新世の縄文時代人と似ている。しかしながら、港川人では、前出の特徴が他の人骨と比較してかなり発達している。港川人と縄文時代人では、頬骨が前方に突出し、頬骨弓は薄く広がっている。これらの点は、周口店上洞人や柳江人とは異なる。四肢骨では、周口店上洞人・柳江人・縄文時代人とは異なり、いくつかの点で周口店出土原人(ペキン原人)と似ている。総合的に、港川人は、東アジアにおける最古のモンゴロイドあるいは現代型ホモ・サピエンスに位置づけられる。したがって、港川人は、周口店上洞人や柳江人とは近縁関係には無く、縄文時代人の直接の祖先であると考えられる。

*以下は、ジャーナル・アーカイヴへのリンクです。

リンク:港川人・東アジアにおける最古のホモ・サピエンス

*以下は、この論文のPDF(2.03MB)です。

「babanarasaki1991.pdf」をダウンロード


私の仕事・英文論文2.大腿骨骨組織による死亡年齢推定

2011年05月15日 | B3.私の仕事:論文・英文[My Work:Pap

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人類学雑誌第98巻1号・p.29-38(1990)の抜き刷り表紙(*画像をクリックすると、拡大します。)

 この論文は、「Estimation of Age at Death by Femoral Osteon Remodeling: Application of THOMPSON's Core Technique to Modern Japanese」で、1989年に、『人類学雑誌』第98巻1号のp.29~p.38に掲載されました。

 以下は、この論文の抄録です。

[抄録]

大腿骨骨組織による死亡年齢推定:現代日本人へのTHOMPSONのコア・テクニックの応用

 近年、骨組織による死亡年齢推定法が盛んになり、いくつかの方法が提唱されている(AHLQVIST & DAMSTEN, 1969; KERLEY, 1965; SINGH & GUNBERG, 1970; THOMPSON, 1979)が、THOMPSONによる”コア・テクニック”は、資料となる人骨の損傷を最小限に抑えるという利点がある。この方法は、高速ドリルを使用して人骨より直径4mmのコアを取り出し、その骨組織の加齢変化を指標として死亡年齢を推定するものである。THOMPSONは、この方法を死亡年齢・性別の判っている解剖学実習用遺体・検死遺体に応用して、重回帰分析を行い、白人用の重回帰推定式を算出した。THOMPSONの研究では、左右の上腕骨・尺骨・大腿骨・脛骨が推定に使われたが、大腿骨が最も良く推定できる部位であることが判明した。そこで、本研究では日本人の解剖学実習用遺体の左・大腿骨からコアを取り出し死亡年齢推定を行った。

 資料は、東京大学医学部解剖学教室の解剖学実習用遺体22例(男性11例・女性11例)及び横浜市立大学医学部解剖学教室の解剖学実習用遺体30例(男子得17例・女性13例)の計52例である。男性28例の死亡年齢は、54歳から98歳、平均78.96歳であり、女性24例の死亡年齢は、43歳から94歳、平均75.71歳である。

 THOMPSONは、19の骨組織を死亡年齢推定の変量として用いたが、本研究では8つの変量、骨緻密質(コア)の厚さ・コアの重量・第二次オステオンんお数・第二次オステオンの平均面積・第二次オステオンの面積の標準偏差・第二次オステオンの平均周辺長・第二次オステオンの平均周辺長の標準偏差・一定面積に占める第二次オステオンの総面積を用いた。そのうち、第二次オステオンの面積の標準偏差と第二次オステオンの周辺長の標準偏差は、本研究で新たに導入された。これらの変量により重回帰分析を行い、日本人用の重回帰推定式を算出し、男性で重相関係数0.581・標準誤差9.28、女性で重相関係数0.748・標準誤差9.95という結果を得た。

 この結果は、信頼性が高いとは言えないが、死亡年齢が50歳以上で、しかも大腿骨しか存在しない場合でも死亡年齢推定が可能であり、また骨資料の損傷を従来の方法よりも最小にとどめるという点で有効であろう。

*以下は、ジャーナル・アーカイヴへのリンクです。

リンク:大腿骨骨組織による死亡年齢推定

*以下は、この論文のPDF(939KB)です。

「Narasaki1990.pdf」をダウンロード


私の仕事・英文論文1.茨城県南坪貝塚出土の縄文時代人骨

2011年05月14日 | B3.私の仕事:論文・英文[My Work:Pap

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国立科学博物館研究報告D類Vol.15・p.1-40(1989)の抜き刷り表紙(*画像をクリックすると、拡大します。)

 この論文は、Bulletin of the National Science Museum(国立科学博物館研究報告)D類Vol.15のp.1~p.40に掲載されました。1989年12月22日に、国立科学博物館から出版されています。ちなみに、国立科学博物館では、A類は動物学・B類は植物学・C類は地学・D類は人類学・E類は理工学と分類されています。

 著者は、国立科学博物館(当時)の馬場悠男先生・同(当時)佐倉 朔先生と私の3人の共著になっています。

 この南坪貝塚は、霞ヶ浦の北部に位置し、茨城空港から近い場所にあります。南北約300m・東西約200mの規模です。発掘調査当時は、茨城県小川町でしたが、現在は小美玉市になっています。遺跡の存在は、明治時代から知られていましたが、1985(昭和60)年に行われた発掘調査で、縄文時代後期の縄文時代人骨3体が出土しました。

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第1号~3号人骨出土状況[Baba・Sakura・Narasaki(1989)p.4](*画像をクリックすると、拡大します。)

[論文要旨](オリジナルの論文には英文要旨のみで和文要旨はありませんが、以下は私が意訳したものです。)

 茨城県の南坪貝塚から、縄文時代後期に属する3体の成人男性縄文時代人骨が出土した。基本的な記載・計測・比較を行った。その結果、3体共に縄文時代人骨の典型的な特徴が認められた。特徴は、顔面部は低く幅広い・眉弓の突出・鼻根部の陥凹・下顎枝は低く幅広いが筋付着部は強い・鉗子状咬合・前歯の抜歯・中ぐらいの身長だが四肢骨の内腕の橈骨と尺骨及び下肢の脛骨と腓骨は比較的長い・扁平脛骨・四肢骨の強い筋付着部・距骨の蹲踞面等が認められる。これらの特徴から、縄文時代人は狩猟採集民で、強い筋肉を持ち、蹲踞姿勢をとり、堅い食物を摂取していたと推定される。

1.第1号人骨

  • 性別:男性
  • 死亡年齢:約30歳~40歳
  • 身長:約155.9cm
  • 抜歯:上顎左I2(第2切歯)
  • 齲蝕(虫歯):上顎右M2(第2大臼歯)・下顎左M2(第2大臼歯)

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第1号人骨[Baba・Sakura・Narasaki(1989)p.6](*画像をクリックすると、拡大します。)

2.第2号人骨

  • 性別:男性
  • 死亡年齢:約20歳代半ば
  • 身長:約158.8cm
  • 抜歯:上顎右I2(第2切歯)
  • 齲蝕(虫歯):無し

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第2号人骨[Baba・Sakura・Narasaki(1989)p.18](*画像をクリックすると、拡大します。)

3.第3号人骨

  • 性別:男性
  • 死亡年齢:約20歳代前半
  • 身長:約158.6cm
  • 抜歯:下顎左C(犬歯)
  • 齲蝕(虫歯):上顎右M1(第1大臼歯)・上顎左M2(第2大臼歯)・上顎左M3(第3大臼歯)・下顎右M1(第1大臼歯)

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第3号人骨[Baba・Sakura・Narasaki(1989)p.25](*画像をクリックすると、拡大します。)

*以下は、この論文のPDF(2.89MB)です。国立情報学研究所のCiNiiにて、オープンアクセスで公開されているものです。

「BNSM15.pdf」をダウンロード