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人類学のススメ

人類学の世界をご紹介します。OCNの「人類学のすすめ」から、サービス終了に伴い2014年11月から移動しました。

私の仕事・群馬県立自然史博物館11.常設展示・自然界におけるヒト11(アメリカ自然史博物館1)

2010年06月30日 | C1.私の仕事:群馬県立自然史博物館[My

 群馬県立自然史博物館の常設展示「ヒトの起源と進化」では、直立二足歩行・火の使用・埋葬で、等身大ジオラマ(ダイオラマ)を展示しています。

 これらの等身大ジオラマ(ダイオラマ)で展示した等身大人形は、アメリカ自然史博物館人類研究部長(当時)の、イアン・タッターソール(Ian TATTERSALL)先生に監修のご協力をいただいて完成させました。それは、1990年代初頭に、アメリカ自然史博物館では、人類進化の素晴らしい展示を完成させていたからです。

 早速、1993年にはアメリカに出張して、ニューヨークのアメリカ自然史博物館を訪問しました。

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群馬県立自然史博物館55.アメリカ自然史博物館の「入口展示」[左:チンパンジー・右:ヒト、ヒトとチンパンジーは近縁であることを示している](*画像をクリックすると、拡大します。)

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群馬県立自然史博物館56.アメリカ自然史博物館での「化石霊長類の復元画」展示[ジェイ・マターネス(Jay MATTERNES)氏による。左から、シヴァピテクス、プロコンスル](*画像をクリックすると、拡大します。)

 ちなみに、このジェイ・マターネスさんには、後に、群馬県立自然史博物館の展示用に、「ホモ・ハビリスの腐肉漁り」の絵と「ホモ・サピエンスの芸術」の絵を描いてもらいました。

 当時、アメリカ自然史博物館では、人類進化の等身大ジオラマが4つありました。それらは、アファール猿人(アウストラロピテクス・アファレンシス)の直立二足歩行、ホモ・エルガステルの腐肉漁り、ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)の生活、極地方のホモ・サピエンスの生活です。

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群馬県立自然史博物館57.アメリカ自然史博物館での「アウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)の直立二足歩行」等身大ジオラマ展示遠景(*画像をクリックすると、拡大します。)

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群馬県立自然史博物館58.アメリカ自然史博物館での「アウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)の直立二足歩行」等身大ジオラマ展示(*画像をクリックすると、拡大します。)

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群馬県立自然史博物館59.アメリカ自然史博物館での「アウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)の直立二足歩行」等身大ジオラマ展示近接(*画像をクリックすると、拡大します。)

 このアファール猿人の展示は、タンザニアのラエトリ遺跡で発見された足跡がきっかけになっています。ただ、この展示には致命的な欠陥があることを、後にタッターソール先生から直接伺いました。

 それは、このジオラマ(ダイオラマ)展示の背景画にありました。展示準備中、タッターソール先生は海外調査に出張しなければならなくなったそうです。ある日、背景画を描いている芸術家から出張先まで電話があり、「火山灰はどのようなものか」と質問があったそうです。タッターソール先生は、「雪のようなものだ」と答えたそうです。1ヶ月後、博物館に戻ると、背景画はすでに完成しており、火山灰ではなく、雪になっていたそうです。先生からは、「開館準備中は、絶対に海外調査に行くな!」というアドバイスをいただきました。ただ、言われなければ気付きませんが・・・。

 現在は、このジオラマ(ダイオラマ)は撤去され、イギリスの芸術家のジョン・ホームズ(John HOLMES)さんが製作した人形2体のみが展示されています。ちなみに、このジョン・ホームズさんには、群馬県立自然史博物館のアファール猿人の等身大人形2体とペキン原人の等身大人形2体を製作してもらいました。

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群馬県立自然史博物館60.アメリカ自然史博物館での「パラントロプス・ロブストスの生活」復元画展示[ジェイ・マターネス(Jay MATTERNES)氏による。](*画像をクリックすると、拡大します。)


私の仕事・群馬県立自然史博物館10.常設展示・自然界におけるヒト10(ヒトの起源と進化)

2010年06月29日 | C1.私の仕事:群馬県立自然史博物館[My

 「人類の起源と進化」は、「サルからヒトへ」と同様に、地層を表現した三角形のパネルに、化石人類の頭蓋骨レプリカを展示しました。

 三角形の内側には、当時、入手できる代表的な化石人類の頭蓋骨模型を展示しています。具体的には、以下のように12種を展示しました。残念ながら、アルディピテクス・ラミダスとアウストラロピテクス・アナメンシスは、入手不能で展示ができませんでした。

 これらの頭蓋骨レプリカは、色を揃えるためと予算を抑えるために、すべて、私が色を塗りました。ただ、頭蓋骨を保護するアクリル・ケースが、時々曇ってしまうのが問題です。

  • アウストラロピテクス・アファレンシス
  • パラントロプス・エチオピクス
  • パラントロプス・ボイセイ
  • パラントロプス・ロブストス
  • アウストラロピテクス・アフリカヌス
  • ホモ・ルドルフエンシス
  • ホモ・ハビリス
  • ホモ・エルガステル
  • ホモ・エレクトス
  • ホモ・ハイデルベルゲンシス
  • ホモ・ネアンデルターレンシス
  • ホモ・サピエンス

 また、三角形の両側には、向かって左側にアウストラロピテクス・アファレンシスの出土した状態の骨を、右側に復元した全身骨格を展示しました。ただ、本来は、向かって左側にアウストラロピテクス・アファレンシスの復元全身骨格を、右側にホモ・エルガステルの復元全身骨格を展示する予定でしたが、開館前日に、その復元全身骨格が入らないことが判明し、急遽展示を変更したものです。残念でしたが、仕方がありません。

 ちなみに、ホモ・エルガステルの全身骨格とは、ケニアのナリオコトメ遺跡で発見された、KNM-WT15000(ケニア国立博物館所蔵ツルカナ湖出土標本15,000番)のことです。ちなみに、このKNM-WT15000全身骨格を見学できるのは、国内では、私の知る限り、国立科学博物館・福井県立恐竜博物館・兵庫県立人と自然の博物館と群馬県立自然史博物館の4館だと思います。この内、福井県立恐竜博物館と群馬県立自然史博物館の骨格は、私が組みました。

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群馬県立自然史博物館52.「ヒトの起源と進化」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)

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群馬県立自然史博物館53..「Dコーナー:自然界におけるヒト」の展示解説シート裏(*画像をクリックすると、拡大します。)

 ただ、1996年時点で最新の展示を行ったのですが、その後、次々と新しい化石人類が発見され、現在ではかなり古くなってしまいました。

 現在は、以下のようにかなりの数が増加しています。ちなみに、「(*)」は、群馬県立自然史博物館開館当時には発見されていなかった種です。

  • サヘラントロプス・チャデンシス(*)
  • オロリン・ツゲネンシス(*)
  • アルディピテクス・カダッバ(*)
  • アルディピテクス・ラミダス
  • アウストラロピテクス・アナメンシス
  • アウストラロピテクス・バーレルガザリ(*)
  • アウストラロピテクス・アファレンシス
  • ケニアントロプス・プラティオプス(*)
  • アウストラロピテクス・セディバ(*)
  • アウストラロピテクス・アフリカヌス
  • アウストラロピテクス・ガルヒ(*)
  • パラントロプス・エチオピクス
  • パラントロプス・ボイセイ
  • パラントロプス・ロブストス
  • ホモ・ルドルフエンシス
  • ホモ・ハビリス
  • ホモ・エルガステル
  • ホモ・ゲオルギクス(*)
  • ホモ・エレクトス
  • ホモ・アンテセソール(*)
  • ホモ・ローデシエンシス(*)
  • ホモ・ハイデルベルゲンシス
  • ホモ・ネアンデルターレンシス
  • ホモ・フロレシエンシス(*)
  • ホモ・サピエンス

 実に、その後、11もの新種が発見されていることになります。もちろん、これらすべてが本当に新種なのかどうかは、これからの研究を待たなければなりませんが・・・。いずれにしても、そろそろ、展示替えが望まれます。

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群馬県立自然史博物館54.人類進化の系統図[堤 隆(2009)『ビジュアル版旧石器時代ハンドブック』、新泉社](原図は、私が担当しました。但し、本書出版後の2010年4月に発表されたアウストラロピテクス・セディバは含まれていない。)


私の仕事・群馬県立自然史博物館9.常設展示・自然界におけるヒト9(サルからヒトへ)

2010年06月28日 | C1.私の仕事:群馬県立自然史博物館[My

 「サルからヒトへ」では、霊長類の進化を展示しました。当時はと言うよりは、今でも、霊長類のの進化は不明な点が多いのですが、スイッチを押すと、点滅して進化の流れがわかるようになっています。

 ここでは、主に、現生霊長類の頭蓋骨の模型と写真を展示しています。手に入る化石霊長類の模型は非常に少ないので、その点は残念です。メインとなるのは、オランウータンの祖先と考えられるシヴァピテクス頭蓋骨とプロコンスル頭蓋骨模型でしょうか。

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群馬県立自然史博物館49.「サルからヒトへ」と「人類の起源と進化」展示遠景(*画像をクリックすると、拡大します。)

 また、パネルは三角形にしたので、その両脇には、チンパンジーの全身骨格とヒトの全身骨格模型を展示しました。

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群馬県立自然史博物館50.「サルからヒトへ」展示全景(*画像をクリックすると、拡大します。)

 ここの展示のポイントは、ヒトに近縁なのは、チンパンジーで、次にゴリラ、オランウータン、テナガザルと続くということです。ちなみに、下の写真で三角形に光っている部分が、次の展示の「人類の起源と進化」で扱う約500万年の範囲になります。

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群馬県立自然史博物館51.「サルからヒト」へ展示拡大(*画像をクリックすると、拡大します。)


私の仕事・群馬県立自然史博物館8.常設展示・自然界におけるヒト8(霊長類としてのヒト3)

2010年06月27日 | C1.私の仕事:群馬県立自然史博物館[My

 今回は、霊長類としてのヒトの内、ロコモーション・尾・立体視と色覚をご紹介します。

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群馬県立自然史博物館44.「霊長類としてのヒト」展示風景遠景(*画像をクリックすると、拡大します。)

7.ロコモーション

 霊長類のロコモーションは、四足歩行・垂直しがみつきはねとび・ブラキエーション(腕わたり)・ナックルウォーキング・直立二足歩行の5つに大きく分かれます。

 ここでは、四足歩行をスローロリスの剥製で、垂直しがみつきはねとびをショウギャラゴの剥製で、ブラキエーションをテナガザルの全身骨格で、ナックル歩行をゴリラの全身骨格で、直立二足歩行をヒトの全身骨格模型で展示しました。

 テナガザルとゴリラの骨格は、実物で、なかなか贅沢な展示です。将来的には、ボーン・クローンズのレプリカに差し替えても良いかもしれません。

 また、霊長類のロコモーションという映像を見ることができます。これは、私がシナリオを書いたものです。

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群馬県立自然史博物館45.「ロコモーション」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)

8.尾

 ヒト上科の、テナガザル・オランウータン・ゴリラ・チンパンジー・ヒトには、尻尾はありません。しかし、尾の名残は、尾骨として残っています。

 ここでは、オランウータン・ゴリラ・チンパンジー・ヒトのお尻の模型を、オランダの業者に製作してもらい展示しました。本当は、テナガザルのお尻も展示したかったのですが、業者からテナガザルの資料が無いとのことで、納期に間に合わないとのことで断念しました。

 また、クモザルの尾も製作してもらいましたが、動物園で見たものよりもずいぶんと大型なので、尻尾部分だけを切断して展示しています。このクモザルの尾の先には、尾紋と呼ばれる指紋のようなものがあり、手のように器用に木の枝や物をつかむことができます。さらに、ヒトの仙骨も展示しました。

 ヒトのお尻の模型は、少したれているのではないかと、当時話題になりましたが、そのまま展示しました。

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群馬県立自然史博物館46.「尾」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)

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群馬県立自然史博物館47.「尾」展示拡大(*画像をクリックすると、拡大します。)

9.立体視と色覚

 立体視と色覚は、非常に難しいテーマで、ずいぶんと悩みました。色々な博物館での展示方法も見学しましたが、コレというものがありません。例えば、当時、伊豆にあったイノシシ博物館や、アメリカのデンヴァー自然史博物館にそのような展示がありました。

 イノシシ博物館では、イノシシの剥製の両方の目にカメラを取り付け、そこから見える風景をモニターに映し出していました。また、デンヴァー自然史博物館では、小さなドームに来館者一人一人が頭を入れてボタンを押すと、ウマの視界とヒトの視界が入れ替わるようになっていました。

 そこで、入口にある立体パネルと同じ手法で展示をすることにしました。展示では、ヒト・ウマ・イヌがシカを見ている風景をパネルで再現しました。これは、ヒトの場合は視界は狭いのですが、立体視できる範囲が広くかつ色がついた状態で見ることができます。一方、ウマの場合は視界は広いのですが、立体視できる範囲が狭く色がついた状態で見ることができません。さらに、イヌはヒトと同様に視界は狭くかつ立体視できる範囲が広いのですが、色がついた状態で見ることができません。ただ、最近の研究では、イヌはかすかに青や赤は識別できるとも言われています。

 この展示も、最近の3D技術の発展で、いずれは3Dモニターで表現できるかもしれません。展示の写真は失敗してピンボケですが、いずれ差し替えます。

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群馬県立自然史博物館48.「立体視と色覚」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)

 「霊長類としてのヒト」の展示解説は、今回で最後です。次は、「ヒトの起源と進化」になります。


私の仕事・群馬県立自然史博物館7.常設展示・自然界におけるヒト7(霊長類としてのヒト2)

2010年06月26日 | C1.私の仕事:群馬県立自然史博物館[My

 今回は、「霊長類としてのヒト」の展示の内、拇指対向性・平爪・指紋をご紹介します。

4.拇指対向性

 拇指とは、親指のことです。霊長類は、この親指が他の4本の指と向かい合う形になっており、木や物を握りやすくなっています。ヒトが異なるのは、他の霊長類はこの拇指対向性が手のみならず足にもあることです。

 ただ、厳密に言うと、この拇指対向性は旧世界ザルと類人猿に見られるもので、新世界ザルや原猿類はそれほど示しません。また、コロブスとクモザルには、親指はありません。コロブスの親指は小さないぼ状になっており、クモザルでは中手骨の痕跡は残っていますが、表面上はなくなっています。

 樹上生活に適応した霊長類は、手足を使って木に登りやすくしたのだと解釈されています。一方、ヒトは、直立二足歩行をすることで、足は手の形とは異なってきました。興味深いことに、大人は当然、自分の足がどうなっているかわかっていますが、幼稚園生や小学校低学年の生徒さんに質問をすると、まず、自分の靴や靴下を脱いで見ようとする場合が多々みられます。

 ここでは、オランダの業者に発注して、オランウータン・ゴリラ・チンパンジー・ヒトの手足の模型を製作してもらいました。なかなか、良くできています。

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群馬県立自然史博物館40.拇指対向性(*画像をクリックすると、拡大します。)

5.平爪

 哺乳類の爪は、鈎爪・蹄・平爪に分化しています。しかし、霊長類では、基本的に平爪になります。ただ、原猿類の足の第2指は化粧爪を持っています。また、マーモセットは、足の親指だけ平爪ですが、残りの指は鈎爪です。さらに、歌でも有名なアイアイは、マーモセットと同様に足の親指だけ平爪で、残りの指は鈎爪ですが、手の指の第3指は針金のように長くなっていて、幼虫を掻き出して食べるのに使っています。

 ここでは、オランダの業者に発注して、オランウータン・ゴリラ・チンパンジー・ヒトの左手を製作してもらいました。ただ指を見せるのではつまらないということで、ボールを握った状態にしました。

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群馬県立自然史博物館41.平爪(*画像をクリックすると、拡大します。)

6.指紋

 指紋は、ネズミにも簡単なものが見られます。また、原猿類や真猿類の指紋は単純な構造をしています。しかし、大型類人猿の指紋は、ヒトと同様に複雑です。指先には稜がありますが、この稜には汗腺があり、少し湿らせることですべり止めの役目をします。

 ちなみに、ヒトの場合、渦状紋・蹄状紋・二重蹄状紋・弓(波)状紋の4種類があります。ちなみに、日本では、元々日本にいた在来系(縄文系)の人々と、弥生時代になって渡来してきた渡来系(弥生系)の人々がいますが、在来系の人々には蹄状紋が多く、渡来系の人々には渦状紋が多いことが知られています。

 ここには、来館者の指紋を拡大して見ることができる装置を展示しています。また、指の拡大模型は、ドイツのソムソ社製の指の模型を購入し、切断して展示しています。

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群馬県立自然史博物館42.指紋展示(*画像をクリックすると、拡大します。)

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群馬県立自然史博物館43.指紋展示拡大(*画像をクリックすると、拡大します。)


私の仕事・群馬県立自然史博物館6.常設展示・自然界におけるヒト6(霊長類としてのヒト1)

2010年06月25日 | C1.私の仕事:群馬県立自然史博物館[My

 「哺乳類としてのヒト」の次は、「霊長類としてのヒト」です。今回は、1.霊長類の分類と分布・2.複雑化した社会・3.性的二型をご紹介します。

1.霊長類の分類と分布

 霊長類は、現在、約200種が世界中に分布しています。研究者によって分類は異なりますが、霊長目は、亜目(あもく)の段階で、原猿亜目と真猿亜目の2つに大きく分かれます。原猿は原始的なサルで、真猿は原猿に比べると高等なサルになります。

 次の下目(かもく)の段階では、原猿亜目は、キツネザル下目・ロリス下目・メガネザル下目の3つに分かれます。キツネザル下目に属するサルは、すべて、アフリカのマダガスカル島に生息しています。また、ロリス下目に属するサルは、アフリカや東南アジアに生息しています。さらに、メガネザル下目に属するサルは、東南アジアに生息しています。

 真猿亜目は、広鼻猿下目と狭鼻猿下目の2つに分かれます。広鼻猿は鼻の穴の間が広く、狭鼻猿は鼻の穴の間が狭いという特徴から名付けられています。広鼻猿は、中南米に生息しており、別名、新世界ザルとも呼ばれています。また、狭鼻猿はアフリカ・東南アジア等に生息しており、別名、旧世界ザルとも呼ばれています。

 狭鼻猿下目は、オナガザル上科とヒト上科に分かれます。また、ヒト上科は、テナガザル科・オランウータン科・ヒト科に分かれ、私達、ヒトはこのヒト科に属します。ちなみに、日本に生息するニホンザルは、オナガザル上科オナガザル科に含まれ、青森県下北半島のニホンザルは世界中で一番北に生息しているので、「北限のサル」とも呼ばれています。

 ここは、図と写真で展示しました。ちなみに、サルの写真は、私が以前勤務していた(財)東京動物園協会にご協力いただきました。

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群馬県立自然史博物館34.「霊長類の分類と分布」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)

2.複雑化した社会

 霊長類の社会の内、類人猿の社会をパネルで展示しました。テナガザルは単雄単雌制です。人間で言う、一夫一婦制になります。また、オランウータンは分散型単雄複雌制で、1頭の雄が、テリトリー内の複数の雌の間を回ることが知られています。ゴリラも、オランウータンと同じ単雄複雌制ですが、異なるのは、1頭の雄と複数の雌とが一緒に行動することです。この単雄複雌制は、人間で言う、一夫多妻になります。

 チンパンジーは、複雄複雌制で、複数の雄と複数の雌とが一緒に行動します。

 興味深いことに、雄と雌の身体があまり違わないテナガザルは単雄単雌制です。一方、雄の身体が雌の約2倍もあるオランウータンやゴリラは、単雄複雌制です。チンパンジーは、オランウータンやゴリラほど雄の身体が雌よりも大きいということはありません。

 ヒトの場合、男性は女性よりも約20%大きいことが知られています。興味深いことに、現代の人類社会の社会構造の分析では約74%が一夫多妻制であると言われています。

 ここでは、パネルで類人猿の社会を展示しましたが、元の図は、ロジャー・ルーウィン(Roger LEWIN)が書いた『Human Evolution: An Illustrated Introduction』を私が翻訳した『人類の起源と進化』(1993年、てらぺいあ)から引用しました。

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群馬県立自然史博物館35.「複雑化した社会」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)

3.性的二型

 性的二型とは、同一種の中での雄(男性)と雌(女性)の形や大きさの違いをさします。類人猿の中で、テナガザルは雄も雌も体重約4kgで、ほとんど変わりません。

 ところが、オランウータンは雄の平均体重は約70kgなのに対し、雌の体重は約37kgと、雌は雄の約1/2です。また、ゴリラは雄の体重は約140kg~180kgなのに対し、雌の体重は最大でも約100kgです。

 チンパンジーは、雄の平均体重は約43kgなのに対し、雌の体重は約33kgで、オランウータンやゴリラほどの違いはありません。

 ここでは、オランウータン・ゴリラ・チンパンジー・ヒトの雄・雌・子供の頭蓋骨模型と顔面部の模型を展示しました。頭蓋骨模型は、ドイツのソムソ社製の模型を購入して展示しました。また、顔面部の模型は、オランダの業者に注文して製作してもらいました。ヒトの顔面部には、鏡を置いて、そこに「Endangered Species」(絶滅危惧種)という表記を入れました。これは、ニューヨークの動物園で、空の檻の向こう側に鏡が置いてあり、そこには「地球上で最も凶暴な動物」と書いている展示からヒントを得ました。

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群馬県立自然史博物館36.「性的二型」展示 (*画像をクリックすると、拡大します。)

 また、ゴリラ・オランウータン・チンパンジーの雌雄の剥製を、ターンテーブルに載せて展示しました。これは、どうしても展示スペースが足りないことから、苦肉の策で私が提案しました。展示に動きが出来、なかなか名案であったと自画自賛しています。それぞれの剥製のバックには、森を想像させるように、ガラスに植物の模様がついています。これは、透過性のないバックだと来館者にまだ他に剥製があることがわからないので、何とかならないかと展示業者に相談し、実現したものです。

 ゴリラは、雄と雌の他に、子供の剥製を展示しています。これらは、ヨーロッパの動物園で生まれて死亡したものをオランダの業者で剥製にして、通産省(当時)と環境庁(当時)の許可を得て輸入しました。

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群馬県立自然史博物館37.「性的二型」展示[ゴリラ雌雄・子供剥製]

 オランウータンは、雄と雌の剥製を展示しています。ゴリラと同様に、ヨーロッパの動物園で生まれて死亡したものをオランダの業者で剥製にして、通産省(当時)と環境庁(当時)の許可を得て輸入しました。

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群馬県立自然史博物館38.「性的二型」展示[オランウータン雌雄剥製]

 チンパンジーは、雄と雌の剥製を展示しています。やはり、ゴリラやオランウータンと同様に、ヨーロッパの動物園で生まれて死亡したものをオランダの業者で剥製にして輸入しました。通産省(当時)と環境庁(当時)の許可を得て輸入したのは、言うまでもありません。

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群馬県立自然史博物館39.「性的二型」展示[チンパンジー雌雄剥製]


私の仕事・群馬県立自然史博物館5.常設展示・自然界におけるヒト5(哺乳類としてのヒト3)

2010年06月24日 | C1.私の仕事:群馬県立自然史博物館[My

 「哺乳類としてのヒト」の内、今回は、9.成長は成体で止まる・10.異形歯性・11.二生歯性・12.耳小骨をご紹介します

9.成長は成体で止まる

 爬虫類では、骨の成長は一生続きます。しかし、哺乳類では成長は成体で止まります。これは、身長を見ると、確かに成人前はどんどんと身長が伸びますが、成人になるともう伸びません。ちなみに、この骨の成長が止まるのは女性の方が早く、男性の方は女性よりも遅くなります。小学校高学年の頃は、女性の方が身長が高いか同じくらいに感じますが、中学校や高校になると、男性の方が身長が高いと感じるのはそのせいです。

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群馬県立自然史博物館27.「成長は成体で止まる」展示[上段はヒトの右大腿骨・下段は恐竜の右大腿骨](*画像をクリックすると、拡大します。)

 この展示では、爬虫類の代表として、恐竜の右大腿骨の成長模型を購入して展示しました。一方、ヒトの方は、成人のものは模型を購入して展示しましたが、子供段階のものは当時販売されていませんでした。そこで、私が担当して収集していた、ヒトの成長段階全身骨格から、右大腿骨を取り出し、私自身でレプリカを作成して展示しました。

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群馬県立自然史博物館28.群馬県立自然史博物館で2009年に実施された第34回企画展『BONES』展の展示風景1.3ヶ月胎児から4歳までの全身骨格

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群馬県立自然史博物館29.群馬県立自然史博物館で2009年に実施された第34回企画展『BONES』展の展示風景2.6歳から25歳までの全身骨格

10.異形歯性

 魚類・両生類・爬虫類の歯は、基本的に同じ形の歯がある「同形歯性」(Homodont)です。ただ、爬虫類でもカメには歯はありません。また、現生の鳥類も歯はありません。

 一方、哺乳類は、異なる形の歯がある「異形歯性」(Heterodont)です。ただ、哺乳類でもヒゲクジラやアリクイには、歯はありません。

 哺乳類の歯には、切歯・犬歯・小臼歯・大臼歯の4種類があります。動物学では、切歯を門歯と・小臼歯を前臼歯・大臼歯を後臼歯と呼ぶ場合もあります。この4種類の歯は、動物の「種」によって数が異なります。哺乳類の歯の基本型は、上顎も下顎も、切歯6本・犬歯2本・小臼歯8本・大臼歯6本で、合計48本です。

 パネルと共に、魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類の頭蓋骨実物を展示しました。ただ、ヒトの頭蓋骨は、模型です。

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群馬県立自然史博物館30.「異形歯性」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)

11.二生歯性

 魚類・両生類・爬虫類の歯は、一生の間に何度も生えかわる多生歯性(Polyphyodont)です。つまり、歯医者さんいらずということになります。現生の鳥類には、歯はありません。

 一方、哺乳類では、乳歯と永久歯しか無く、1回しか生えかわりません。このようなものを、二生歯性(Diphyodont)といいます。

 ちなみに、ヒトの乳歯は、乳切歯・乳犬歯・乳臼歯の3種類があり、上顎も下顎も、乳切歯4本・乳犬歯2本・乳臼歯4本で、合計20本です。また、永久歯は、上顎も下顎も、切歯4本・犬歯2本・小臼歯4本・大臼歯6本で、合計32本です。つまり、ヒトの場合、一生の間に生える歯は全部で52本になります。ただ、親不知(おやしらず)と呼ばれる第3大臼歯は、先天的に欠如しているヒトもいます。

 ここでは、パネルに加えて、サメの顎骨と歯の各年齢での成長段階模型・各年齢段階の頭蓋骨模型を展示しました。歯や頭蓋骨の模型は、ドイツのソムソ社製のものを購入して展示しました。

 また、「二生歯性」というタイトルの映像も見ることができます。これは、私がシナリオを書いて製作したものです。待ち受け画面は、子供の頭蓋骨を三次元スキャナーで読み込んで、クルクルと回っている状態のものを製作し、動きを表現しました。

 本当は、すべての歯が抜けた老人の無歯顎を展示したかったのですが、当時は、実物しかなかったため断念しました。今では、ボーン・クローンズ社から、無歯顎模型を購入することができるので、追加展示したいところです。

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群馬県立自然史博物館31.「二生歯性」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)

12.耳小骨

 耳小骨は、哺乳類では中耳にある骨です。この耳小骨は、3個の小さな骨で、その骨の形から、槌(つち)骨・砧(きぬた)骨・鐙(あぶみ)骨と呼ばれます。

 この耳小骨は、元は、下等脊椎動物段階では顎骨の関節骨や方形骨でしたが、進化の過程で、段々と耳の中に移動したと考えられています。

 耳小骨は、発掘人骨でも発見されることがよくありますが、小さいので、クリーニングの際にふるいを使用しないと紛失してしまうほどです。以下に、私が所有している、ヒトの耳小骨の模型を示します。スケールを参考にして、その大きさを見て下さい。

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群馬県立自然史博物館32.耳小骨模型[私が所有しているもの](*画像をクリックすると、拡大します。)

 耳小骨では、ワニの頭蓋骨・ヒトの耳の拡大模型・耳小骨の模型を展示しました。ヒトの耳の拡大模型は、ドイツのソムソ社の模型を購入して展示しています。

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群馬県立自然史博物館33.「耳小骨」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)

 このコーナーで、参考になる本をご紹介します。それは、順天堂大学の解剖学者、坂井建雄さんが1998年に、ニュートンプレスから出版した、『人体は進化を語る』です。

人体は進化を語る―あなたのからだに刻まれた6億年の歴史 人体は進化を語る―あなたのからだに刻まれた6億年の歴史
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:1998-10

 本書の内容は、以下のように、全10章からなります。

  1. 消化器の進化:なぜ腸は「の」の字にねじれたか?
  2. 呼吸器の進化:肺とうきぶくろはどちらが原始的か?
  3. 泌尿器の進化:不要なものをどう排出するか?
  4. 循環器と血液の進化:なぜ心臓の拍動は左側に感じるのか?
  5. 発生過程と生殖器の進化:男になるか女になるかは何で決まる?
  6. 皮膚と外分泌腺の進化:頭蓋骨は魚の鱗から生まれた?
  7. 手と足の進化:なぜ人間の下肢は180度ねじれたか?
  8. 骨格とからだの設計:脊椎動物の起源はミミズ?
  9. 頭と脳の進化:なぜ人間の脳だけが著しく発達したのか?
  10. 人体と地球の進化史:地球の誕生から人類の誕生まで

Sakai1998

 「哺乳類としてのヒト」の展示解説は、今回で最後です。次は、「霊長類としてのヒト」になります。 


私の仕事・群馬県立自然史博物館4.常設展示・自然界におけるヒト4(哺乳類としてのヒト2)

2010年06月23日 | C1.私の仕事:群馬県立自然史博物館[My

 今回は、「哺乳類としてのヒト」の内、5.一生・6.大脳の発達・7.爪の分化・8.頸椎が7個をご紹介します。

5.一生

 これは、哺乳類の場合、一生の時間は心臓の鼓動数で決まるという展示です。ネズミは鼓動が早いため一生は短く、ゾウは鼓動が遅いため一生ちなみに、ネズミは1分間に約600回・ヒトは1分間に約60回~70回・ゾウは1分間に約30回と異なります。ところが、どの動物も一生の鼓動数は、約15億回と決まっています。また、どの動物も、1回呼吸する間に約4回鼓動していることが知られています。

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群馬県立自然史博物館22.「一生」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)

 この展示は、パネルに、ネズミとヒトとゾウのシルエットがあり、心臓部分には鼓動が点滅して示すようになっています。ヒトの場合は、指を中に入れて自分の心臓の鼓動を見ることができます。ところが、ある日、オランダの古生物学者が見学に来ましたが、彼の指は大きすぎて入りませんでした。私は、ただ、苦笑いするしかありません。ユニバーサル・デザインを目指すのは、かなり難しいことを思い知りました。

 この展示は、有名な東京工業大学の本川達雄さんの本を元にしました。本川達雄さんには、1992年に中公新書1087として『ゾウの時間ネズミの時間』を中央公論社から、また、1993年には福音館から『絵ときゾウの時間ネズミの時間』という絵本を出版されています。

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書) ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)
価格:¥ 714(税込)
発売日:1992-08

絵ときゾウの時間とネズミの時間 (たくさんのふしぎ傑作集) 絵ときゾウの時間とネズミの時間 (たくさんのふしぎ傑作集)
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:1994-04-01

 また、クヌート・シュミット-ニールセン(Knut SCHMIDT-NIELSEN)の『Scaling』も参考にしました。当時、この本の翻訳はまだ出版されていませんでした。その後、1995年に、下澤楯夫さんによる監訳・大原昌宏さんと浦野 知さんによる翻訳が『スケーリング:動物設計論』として、コロナ社から出版されています。

Scaling: Why is Animal Size so Important? Scaling: Why is Animal Size so Important?
価格:¥ 2,918(税込)
発売日:1984-07-27

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スケーリング 動物設計論―動物の大きさは何で決まるのか
価格:¥ 4,410(税込)
発売日:1995-06

6.大脳の発達

 哺乳類は、大脳が発達していることが特徴です。鳥類も大脳が発達していますが、大脳皮質はあまり発達していません。鳥類は、小脳が発達していることが特徴ですが、空を飛ぶための平衡感覚が優れているためだと考えられています。

 脳の拡大模型と実物の液浸(アルコール)標本を展示しています。

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群馬県立自然史博物館23.「大脳の発達」展示全景(*画像をクリックすると、拡大します。)

 この魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類の脳の模型も、予算削減のため、ドイツのソムソ製模型を購入して展示しました。

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群馬県立自然史博物館24.「大脳の発達」展示拡大(*画像をクリックすると、拡大します。)

 この展示の参考にしたのは、アメリカの古生物学者のアルフレッド・ローマー(Alfred Sherwood ROMER)[1894-1973]とトーマス・パーソンズ(Thomas S. PARSONS)が書いた、『The Vertebrate Body』です。この本は、元埼玉医科大学の解剖学者・平光厲司さん[1929-1994]さんによる翻訳で、1983年に、法政大学出版から出版されました。

 この本は、古生物学者が書いたものではなく、解剖学者や生物学者が書いたのかと思わせるほどの内容で、素晴らしい比較解剖学の教科書です。

脊椎動物のからだ―その比較解剖学 脊椎動物のからだ―その比較解剖学
価格:¥ 26,250(税込)
発売日:1983-01

7.爪の分化

 哺乳類の爪には、イヌやネコが持つ鈎爪(カギ)・ウマやウシが持つ蹄(ヒヅメ)・ヒトを含む霊長類が持つ平爪(ヒラ)の3種類があります。鈎爪は引っかけて登ったり走ったりするのに効果的で、蹄は長距離を走るのに効果的です。

 これらの模型は、オランダの業者に発注して製作しました。

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群馬県立自然史博物館25.「爪の分化」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)

8.頸椎が7個

 脊椎は、頭の方から頸椎・胸椎・腰椎・仙椎・尾椎の5種類の骨から構成されています。ヒトの場合、それぞれ、7個・12個・5個・1個(5個が癒合)・1個(3個から6個が癒合)となります。この数は、動物の種類によって異なるのですが、頸椎の数は、ナマケモノ等一部を除くと基本的に7個です。

 ここでは、ヒトの模型・クジラ・キリンを展示しています。なかなか、迫力ある展示になったと思います。クジラの頸椎は、7個が癒合した状態になっています。クジラは、群馬県立歴史博物館から移管されたものです。群馬県立歴史博物館は、1979年に開館していますが、自然史資料も収蔵していました。

 キリンの首はとても長いので、多数の頸椎がありそうですが、それぞれが長く7個です。キリンも実物で、全身の中で、頭蓋骨と頸椎のみを展示しています。今では、アメリカのボーン・クローンズ(Bone Clones)という、人骨や動物骨の複製を多数販売している会社がありキリンも販売していますが、当時はありませんでした。将来的に、複製と交換することを望みます。

 ちなみに、クジラとキリンの骨は、私が白の水性スプレーで色を塗りました。

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群馬県立自然史博物館26.「頸椎が7個」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)


私の仕事・群馬県立自然史博物館3.常設展示・自然界におけるヒト3(哺乳類としてのヒト1)

2010年06月22日 | C1.私の仕事:群馬県立自然史博物館[My

 群馬県立自然史博物館の2階常設展示の内、『自然界におけるヒト』の最初のコーナーは、「動物としてのヒト」という展示にしました。これは、ヒトも動物であることを自覚してもらうために企画したものです。

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群馬県立自然史博物館15.「動物としてのヒト」展示遠景(*画像をクリックすると、拡大します。)

 ヒトは、分類すると、動物界・脊索動物門・脊椎動物亜門・哺乳綱・霊長目・ヒト科・ホモ属・サピエンス種となります。つまり、ヒトは背骨を持ち、お乳で子供を育てる、尻尾の無い、知恵のあるサルです。

 展示は、脊椎動物としてのヒト・哺乳類としてのヒト・霊長類としてのヒトに分けて、特徴を解説しました。この展示は、以前、ある人類学者からオーストラリアの博物館の展示との類似性を指摘され、そこを真似たのかと質問を受けました。しかし、私は、そもそもオーストラリアはまだ行ったこともありませんし、その博物館の存在も知りませんでした。

 この「動物としてのヒト」の展示案は、立教大学名誉教授の人類学者・香原志勢先生の講義からヒントを得ました。私は、立教大学で学んだことはありませんが、香原志勢先生は私が通っていた大学で人類学の非常勤講師をされており、その講義ノートを元にしました。幸い、香原先生は板書での絵が非常にうまく、私もそれを何とか書き写して保存していたのです。

 香原志勢先生の講義の一部は、1981年にNHKブックス405として日本放送出版協会から出版された、『人体に秘められた動物』で読むことができます。

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人体に秘められた動物 (NHKブックス (405))
価格:¥ 795(税込)
発売日:1981-01

 脊椎動物としてのヒト展示では、個体発生と系統発生という展示だけですが、魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類との比較をパネルで示しました。残念ながら、撮影したフィルムが失敗しているのでここでお見せすることができません。

 ただ、この個体発生と系統発生は、アメリカの人類学者、アドリエンヌ・ツィルマン(Adrienne L. ZIHLMAN)さんが1982年に出版した、『The Human Evolution Coloring Book』を参考にしました。この本は、それ以外の部分もずいぶんと参考にしています。この本は、元防衛医科大学の人類学者、木村邦彦先生達による翻訳で『カラースケッチヒトの進化』として出版されています。

The Human Evolution Coloring Book (College Outline) The Human Evolution Coloring Book (College Outline)
価格:¥ 1,775(税込)
発売日:1982-04

カラースケッチヒトの進化
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2000-01

 今回は、哺乳類としてのヒトの内、1.胎生・2.恒温性・3.汗腺・4.二心房二心室の展示をご紹介します。

1.胎生

 魚類・両生類・爬虫類・鳥類は卵生ですが、哺乳類は胎生であることを示しました。魚類から鳥類までは卵の模型を展示し、哺乳類はウサギの子供の剥製を展示しています。また、魚類から哺乳類までの成長している実物の液浸標本(アルコール)も展示しました。

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群馬県立自然史博物館16.「胎生」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)

2.恒温性

 魚類・両生類・爬虫類は変温性ですが、鳥類と哺乳類は恒温性です。つまり、体温を一定に保つことができます。ここでは、装置を使い、両手を置くと手で体温を感じることができる仕組みになっています。しかし、なかなか、理解されないようで、反省しています。

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群馬県立自然史博物館17.「恒温性」展示(*画像をクリックすると、拡大します。)

3.汗腺

 汗腺には、アポクリン腺とエクリン腺とがあります。エクリン腺は汗が出る腺ですが、アポクリン腺は体臭の元になる腺です。汗は、体温を下げる効果があります。例えば、イヌでは全身にアポクリン腺が分布しており、エクリン腺は手足の裏ぐらいにしかありません。そこで、汗をかいて体温を下げることができないイヌは、パンティングと呼ばれるように、口をあけてハーハーとあえぐ行動をとります。

 アポクリン腺は、ヒトでは、耳の中・腋・陰部等に分布しています。ちなみに、耳垢が湿っているヒトと腋臭は相関関係があり、耳垢が乾燥しているヒトは腋臭が無い傾向にあります。

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群馬県立自然史博物館18.「汗腺」展示全景(*画像をクリックすると、拡大します。)

 展示では、パネルを使用しました。その他、皮膚の拡大模型も展示しています。この拡大模型は、日本の業者さんに頼むと莫大な金額がかかるので、ドイツのソムソ社の模型を購入して展示しました。

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群馬県立自然史博物館19.「汗腺」展示拡大(*画像をクリックすると、拡大します。)

4.2心房2心室

 心臓の構造は、魚類では1心房1心室、爬虫類と両生類では2心房1心室ですが、鳥類と哺乳類は2心房2心室と異なっています。鳥類と哺乳類では、2心房2心室で、静脈と動脈が混ざらない構造になっており、効率良く血液を循環させることができます。このことは、恒温性と密接な関係にあります。

 展示では、パネルの右側に血液の流れがわかるように色分けして点滅するものを設け、中央には、それぞれの心臓の模型を展示しました。この模型も、経費削減のため、ドイツのソムソ社の模型を購入して展示しました。また、実物大の液浸標本(アルコール)も展示しています。 

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群馬県立自然史博物館20.「2心房2心室」展示全景(*画像をクリックすると、拡大します。)

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群馬県立自然史博物館21.「2心房2心室」展示拡大(*画像をクリックすると、拡大します。)


私の仕事・群馬県立自然史博物館2.常設展示・自然界におけるヒト2(ヒトと動物)

2010年06月21日 | C1.私の仕事:群馬県立自然史博物館[My

 群馬県立自然史博物館の常設展示『自然界におけるヒト』の展示の始まりは、少し離れた場所にあります。それは、1階から2階に上がりきったところにある「ヒトと動物」です。この展示は、「群馬の自然」の尾瀬シアターの上に設置しました。

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群馬県立自然史博物館8.「Dコーナー:自然界におけるヒト」の展示解説シート表(*画像をクリックすると、拡大します。)

 ここには、ヒトがウマに乗り、イヌを使ってシカを追い込み、矢で狩猟をしているイメージを、すべて骨で表現しています。具体的には、ヒトはレプリカで、ウマ・シカ・イヌは実物です。ただ、シカのオスの全身骨格は入手できなかったため、角の無いメスになった点は心残りです。

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群馬県立自然史博物館9.「ヒトと動物」展示全景(*画像をクリックすると、拡大します。)

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群馬県立自然史博物館10.「ヒトと動物」解説板(*画像をクリックすると、拡大します。)

 実は、これは、イギリス・ロンドン大学考古学研究所の環境考古学者のコーンウォール(I. W. CORNWALL)が書いた、動物考古学の名著『Bones for the Archaeologist』(考古学者のための骨)がヒントになりました。これは、このブログの「動物考古学の洋書」の中で、すでにご紹介していますが、1956年にPhoenix Houseから出版されています。

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Bones for the Archaeologist
価格:¥ 1,293(税込)
発売日:1975-02-01
群馬県立自然史博物館11.『Bones for the Archaeologist』の表紙(*画像をクリックすると、拡大します。)

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群馬県立自然史博物館12.『Bones for the Archaeologist』の図(*画像をクリックすると、拡大します。)

 この本以外に、1985年7月16日に、ノースウェスタン大学(Northwestern University)考古学夏期野外実習で訪問した、イリノイ州立博物館(Illinois State Museum)の展示も参考になりました。

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群馬県立自然史博物館13.イリノイ州立博物館の常設展示1(ヒトとウマ)

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群馬県立自然史博物館14.イリノイ州立博物館の常設展示2(ヒトとウマ)


私の仕事・群馬県立自然史博物館1.常設展示・自然界におけるヒト1(入口等身大立体パネル)

2010年06月20日 | C1.私の仕事:群馬県立自然史博物館[My

 群馬県立自然史博物館は、1996年10月に開館しました。私は、1993年4月から準備室に勤務し、約3年半かけて常設展示「自然界におけるヒト」を担当者として完成させました。ちなみに、このコーナー名は、イギリスの生物学者、トーマス・ハックスリー(Thomas HUXLEY)[1825-1895]が1863年に出版した『Man's Place in Nature(自然界における人間の位置)』に基づいています。ハックスリーは、進化論で有名なチャールズ・ダーウィン(Charles DARWIN)[1809-1882]を擁護したことでも有名で、「ダーウィンのブルドッグ(番犬)」と呼ばれていました。

 この「自然界におけるヒト」の入口には、アファール猿人(アウストラロピテクス・アファレンシス[Australopithecus afarensis])の復元模型と骨格、チンパンジーの剥製と骨格が、角度を変えると交互に立体的に見える等身大パネルを設置しました。これは、チンパンジーはヒトに近縁であることから選びました。

 このパネルは、1993年にアメリカ自然史博物館に海外出張した際に見た展示がヒントになりました。当時、アメリカ自然史博物館の人類展示は世界一という評判で、人類研究部長(当時)のイアン・タッターソール(Ian TATTERSALL)博士に常設展示の協力をお願いしました。

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群馬県立自然史博物館1.自然界におけるヒトの入口

 アメリカ自然史博物館の等身大立体パネルは、ホログラムを使って、人体骨格と内臓とが交互に見えるというものでした。また、国内では国立科学博物館で、アファール猿人の骨格と復元をCG(コンピュータ・グラフィック)で展示していました。

 ところが、ホログラムは価格は比較的安いのですが色を再現することができません。また、CGは色を再現できますが、価格が高い(当時は)ことがネックでした。その結果、フランネルレンズを採用することにしました。このフランネルレンズとは、かまぼこ型のレンズが多数並んでいるもので、原理は、昔、チョコレートのおまけについていたバッジと同じです。

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群馬県立自然史博物館2.自然界におけるヒトの入口等身大立体パネル(左:アファール猿人、右:チンパンジー)

 チンパンジーは、実物骨格標本もあったのですが、雄のチンパンジーの大きさと合わないためアメリカのフランス・キャスティングが製作した全身骨格模型を使用しました。チンパンジーは、オランダやスペインの動物園で死亡した個体をオランダの剥製会社で製作したものを通産省(当時)と環境庁(当時)の許可を得て輸入しました。

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群馬県立自然史博物館3.等身大立体パネルに使用したチンパンジー

 撮影は、アメリカ人のフォトグラファーを日本に呼んで、1996年に成城の東宝スタジオで3日間かけて行われました。撮影するのは、アファール猿人の模型と骨格、チンパンジーの剥製と骨格の4カットなので、1日で終わるものと勝手に想像していましたが、1日に1カットか2カットしか撮影しません。しかも、スタジオではここはディスコかと錯覚するぐらいの音響で音楽をならしながら撮影がすすみます。そのプロ魂には驚かされましたが、正直、博物館の開館をひかえた多忙な中で、2泊3日で撮影に立ち会うのはきつかったのを覚えています。

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群馬県立自然史博物館4.チンパンジー全身骨格模型の撮影風景(剥製の方も撮影したのですが、うまく仕上がっていませんでした。まだ、デジタルカメラがなく、フィルムカメラでリバーサルフィルムを使用して撮影しました。)

 アファール猿人の等身大模型は、イギリスの芸術家のジョン・ホームズ(John HOLMES)さんに製作してもらったものです。ホームズさんの作品は素晴らしいもので、アメリカ自然史博物館にも展示されていました。

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群馬県立自然史博物館5.アファール猿人模型の撮影風景

 アファール猿人の全身骨格模型は、アメリカで製作することも検討し実際に輸入したのですが、完成度がいまいちなので、国立科学博物館(当時)の馬場悠男先生に協力していただき、矢沢造型の矢沢高麗蔵さんとオモテ工芸で製作しました。

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群馬県立自然史博物館6.アファール猿人全身骨格模型の撮影風景

 このパネルは、1996年の開館時には、世界最大のフランネルレンズを使った立体パネルでした。現在、これを超えるものがあるのかどうかは定かではありません。

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群馬県立自然史博物館7.関係者及びスタッフと記念撮影


私の仕事:発掘調査・エリザベスマウンド11(発掘終了)

2010年06月19日 | D2.私の仕事:発掘調査・エリザベスマウ

 1985年の第18回ノースウェスタン大学考古学フィールド・スクールには、5週間コースと9週間コースがありました。5週間コースは1985年6月9日~同7月13日まで、9週間コースは1985年6月9日~同8月10日まででした。ほとんどの学生は、9週間コースに参加しており、私も9週間コースに登録して参加しました。

 9週間というと、約2ヶ月の長さにわたるわけですが、当初英語があまりうまくなかった私も、さすがに英語漬けの日々で、終了する頃には何とか意志疎通ができるようになりました。

 1985年の発掘調査には、学生は15人が参加しました。この中には、以前ご紹介した、サンパウロ大学のウォルター・ネーヴィスさんも入っています。この他、会社を退職して考古学を志していたレス・ミリガンさんもいました。この男性2人を除いた、男性4人と女性9人は、キャンプスヴィルの一軒家が宿舎です。

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エリザベスマウンド76.当時の私の愛車VWビートルが停まっているのが宿舎の一軒家

 男性4人は1階に、女性9人は2階に寝泊まりして、約2ヶ月発掘調査と実習を行いました。もちろん、個室ではなく相部屋です。

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エリザベスマウンド77.宿舎の一軒家

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エリザベスマウンド78.学生達1

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エリザベスマウンド79. 学生達2

 毎朝、6時から朝食を別の場所にある食堂でとります。

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エリザベスマウンド80. 食堂での朝食風景

 毎朝、6時30分に、食堂からバスで発掘現場に向かいます。

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エリザベスマウンド81.バスの中

 毎朝、7時30分から15時30分まで発掘実習です。

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エリザベスマウンド82. エリザベスマウンド遠景

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エリザベスマウンド83.エリザベスマウンド近景

 毎日、スコップを使って2m×2mの広さで、20cmずつ、1日約60cm掘り下げる作業は男性でもかなりきついものでした。しかし、アメリカの女子学生も頑張って同じぐらい掘り下げます。

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エリザベスマウンド84.私が担当したグリッドで

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エリザベスマウンド85.私が分層法で掘り下げたグリッド

 発掘調査が終了すると、アメリカでは自分が履いていた靴を木にぶら下げるという習慣があり、私も愛用の靴を木にぶら下げてきました。

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エリザベスマウンド86. 発掘終了後の記念写真

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エリザベスマウンド87. 発掘終了後の記念写真

 約2ヶ月という期間、アメリカ・イリノイ州エリザベスマウンドの発掘調査は、大変、勉強になりました。日本でも、考古学では発掘実習をしていますが、2ヶ月もの長期に及ぶものはそうないのではないでしょうか。

 このノースウェスタン大学のフィールドスクールは、私が参加した第18回で終了してしまいました。それは、ジェーン・バイクストラ先生が、翌年の1986年から母校のシカゴ大学に移籍したからです。バイクストラ先生は、その後、1995年にニュー・メキシコ大学へ、また、2005年にはアリゾナ州立大学に移籍して現在にいたっています。このフィールドスクールも、バイクストラ先生の移籍にともなって、名前を変えながら現在もキャンプスヴィルのアメリカ考古学センターで行われています。ただ、現在は6月から7月にかけての6週間コースしかないようです。

 以下は、2002年に、私がこのフィールドスクールについて書いたもののPDFファイルです。1.43MBあります。

「garfb202002.pdf」をダウンロード


骨考古学の洋書17.イリノイ川下流域エリザベス遺跡のアーケイック期及びウッドランド期の墓

2010年06月18日 | I7.骨考古学の洋書[Osteoarchaeology:

Frontcover

Archaic and Woodland Cemeteries at the Elizabeth Site in the Lower Illinois Valley (Kampsville Archeological Center Research Series, Vol 7)
価格:¥ 1,537(税込)
発売日:1988-07

 この本は、これまでご紹介してきました、エリザベスマウンド群の発掘報告書です。ダグラス・チャールズ(Douglas K. CHARLES)さん、スティーヴン・リー(Steven R. LEIGH)さん、ジェーン・バイクストラ(Jane E. BUIKSTRA)さんの3人による編集で、1988年に、アメリカ考古学センターから出版されました。

 本書の内容は、以下のように、全11章からなります。

  1. Introduction (Douglas K. CHARLES & Jane E. BUIKSTRA)
  2. Geomorphology of the Elizabeth Site (G. Reid FISHER)
  3. Excavation Methodology (Douglas K. CHARLES・Jane E. BUIKSTRA・Steven R. LEIGH)
  4. Archaic Mortuary Component (Donald G. ALBERTSON & Douglas K. CHARLES)
  5. Middle Woodland Component (Steven R. LEIGH・Douglas K. CHARLES・Donald G. ALBERTSON)
  6. Late Woodland and Unassignable Components (Douglas K. CHARLES・Steven R. LEIGH・Donald G. ALBERTSON)
  7. The Elizabeth Skeletal Remains: Demography and Disease (Susan R. FRANKENBERG・Donald G. ALBERTSON・Luci KOHN)
  8. Ceramics at the Elizabeth Site (David T. MORGAN)
  9. Preliminary Analysis of Lithic and Other Nonceramic Assemblages (George H. ODELL)
  10. Comparative Analysis of the Elizabeth Middle Woodland Artifact Assemblage (Steven R. LEIGH)
  11. Middle Woodland Mound Structure: Social Implications and Regional Context (Jill BULLINGTON)
  • Appendix1: Soil Tests and Examles of Problems Addressed (G. Reid FISHER)
  • Appendix2: Burial Descriptions (Douglas K. CHARLES・Steven R. LEIGH・Donald G. ALBERTSON)
  • Appendix3: Fauna from Mounds 6 & 7 (Steven R. LEIGH & Darcey F. MOREY)
  • Appendix4: Pathology Descrptions (Susan R. FRANKENBERG & Donald G. ALBERTSON)
  • Appendix5: Archeobotany of the Sub-Mound 6 Middle Archaic Occupation (David L. ASCH & Nancy B. ASCH)

Participants

本報告書に記載されている、発掘調査参加者名簿。私の名前も1985年参加として書かれていますが、「Narasaki」ではなく、「Nurasaki」と、間違って記載されています。(*画像をクリックすると、拡大します。)

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エリザベスマウンドの発掘調査で、中心的役割を果たした、スティーヴン・リー(Steven R. LEIGH)[右]さんとジル・バリントン(Jill BULLINGTON)[左]さんご夫妻。ちなみに、VWビートルは、当時の私の愛車。現在、リーさんは、以前ご紹介した、ライル・コーニスバーグ(Lyle KONIGSBERG)さんと同じ、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の人類学部に勤務しています。


私の仕事:発掘調査・エリザベスマウンド10(人骨の発掘)

2010年06月17日 | D2.私の仕事:発掘調査・エリザベスマウ

 エリザベスマウンド7号では、1984年と私が参加した1985年の発掘調査で、22基の墓坑が検出され、30体の人骨と1体の犬骨が出土しました。この22基の墓坑の内、5基には1体以上が埋葬されています。

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エリザベスマウンド64.墓坑発掘風景

 30体の人骨の性別は、判明したものの内約20%が男性で、30%が女性でした。また、死亡年齢は、生後6ヶ月から50歳以上で、未成年の比率は約50%に及びます。

Excavation

エリザベスマウンド65.人骨実測図作成風景(左は、私)

 15号墓坑出土人骨は、時代は中期ウッドランド期で、1個体・性別不明で約2.5歳~3歳と推定されています。なぜか、頭部のみ、左足に位置しています。

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エリザベスマウンド66.15号墓坑発掘風景

 古病理として、矢状縫合とラムダ縫合の早期癒合症、片方の眼窩にクリブラ・オルビタリア(眼窩篩)が認められています。

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エリザベスマウンド67.15号墓坑出土人骨出土状況

 16号墓坑出土人骨は、時代は中期ウッドランド期で、4個体が合葬されています。ただ、16-1号は、埋葬時期が少しずれている可能性があります。16-1号は性別不明で約2.5歳~3歳・16-2号は約45歳以上の女性・16-3号は性別不明で約1.3歳~1.5歳・16-4号は性別不明で約2歳~2.5歳と推定されています。

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エリザベスマウンド68.16号墓坑発掘風景

 古病理として、16-1号と16-3号には、片方の眼窩にクリブラ・オルビタリア(眼窩篩)が認められています。また、16-2号には、骨髄炎が認められています。

Burial161

エリザベスマウンド69.16号墓坑出土人骨出土状況(16-2号・16-3号・16-4号人骨)

Burial162

エリザベスマウンド70.16号墓坑出土人骨(16-1号人骨)

 18号墓坑出土人骨は、中期ウッドランド期で、1個体・約50歳以上の女性であると推定されています。

 古病理として、下肢骨に骨髄炎と骨膜炎が認められています。

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エリザベスマウンド71.18号墓坑出土人骨

 21号墓坑出土人骨は、時代は中期ウッドランド期で、2体が合葬されています。どちらも死亡年齢約50歳以上の男女だと推定されています。

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エリザベスマウンド72.21号墓坑発掘風景

 古病理として、男性には骨膜炎と関節炎が、女性には骨粗鬆症と骨膜炎・関節炎が認められています。

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エリザベスマウンド73.21号墓坑出土人骨出土状況

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エリザベスマウンド74.13号エリザベスマウンド8号墓坑発掘風景

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エリザベスマウンド75.エリザベスマウンド7号墓坑位置図


骨考古学の洋書16.死の考古学

2010年06月16日 | I7.骨考古学の洋書[Osteoarchaeology:
The Archaeology of Death (New Directions in Archaeology) The Archaeology of Death (New Directions in Archaeology)
価格:¥ 2,084(税込)
発売日:2009-05-07

 この本は、Robert CHAPMANさん・Ian KINNESさん・Klavs RANDSBORGさんの3人による編で、考古学と墓について書かれたものです。原題は、『The Archaeology of Death』で、1981年に、ケンブリッジ大学出版から出版されました。1979年に、ロンドンで開かれた同名のカンファレンスが元になっています。

 本書の内容は、以下のように、全10章からなります。

  1. Approaches to the archaeology of death (Robert CHAPMAN & Klavs RANDSBORG)
  2. The search for rank in prehitstoric burials (James A. BROWN)
  3. Socia configurations and the archaeological study of mortuary practices: a case study (John O'SHEA)
  4. One-dimensional archaeology and multi-dimensional people (Lynne GOLDSTEIN)
  5. The emergence of formal disposal areas and the problem of megalithic tombs in a prehistoric Europe (Robert CHAPMAN)
  6. Dialogues with death (Ian KINNES)
  7. Various styles of urn cemeteries and settlement in southern England c.1400-1000bc (Richard BRADLEY)
  8. Burial, succession and early state formation in Denmark (Klavs RANDSBORG)
  9. Mortuary practices, palaeodemography and palaeopathology: a case study from the Koster site (Illinois) (Jane E. BUIKSTRA)
  10. Mortality, age structure and status in the interpretation of stress indicators in prehistoric skeletons: a dental example from the Lower Illinois valley (Della C. COOK)

 本書では、主に、イギリスとアメリカの墓制が紹介されています。