デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

インディペンデントの栄光 ユーロスペースから世界へ

2022-10-07 11:06:44 | 買った本・読んだ本
書名「インディペンデントの栄光 ユーロスペースから世界へ」
著者  堀越謙三(構成 高崎俊夫)  出版社 筑摩書房  出版年 2022

80年代から世界的にインディペンデントの映画がまさに雨後の筍状態でつくられていくと、それまでのように大手配給会社が輸入するということではすまなくなる。特にヨーロッパのアート系の映画を配給するために、目が利き、ネットワークをもった人たちが頭角を表すようになる。著者は、その第一人者で、ユーロースペースを立ち上げ、アート系の名作上映の道を開き、渋谷で映画興業に携わり、さらには海外の巨匠と共同で映画を制作してきた、ある意味80年代から現代までの日本映画界を支え続けてきた、影の大立者である。その半生と、配給や制作にまつわるおそらく山のようにあるエピソードの中から、高崎俊夫という映画の達人の巧みな誘導によって、とびきりの話を選び、忌憚なく語ってくれている。本書によって、日本における80年代以降の洋画上映史だけでなく、日本映画の海外進出の足跡などを含めて概観できるといえるだろう。それだけでなく堀越の映画配給、共同制作の仕事を通じて、個性的な生き方の神髄にも触れられるので、映画にそんなに関心がなくても、存分に楽しめる本となっている。
私も興業の世界(サーカス)に40年ほどいたので、ここで堀越が語っている映画配給や制作を含めての興業の危ういところは身に迫るものがあった。ただこれを読んで、映画をつくるという側に立つと、我々の興業よりリスクの高いものだということがわかった。
そのような危うい世界で、常に第一線で、しかも長らく活躍できたのは、なにより目利きだったからだったと思った。自分の好みだけでなく、当たるか、当たらなくてもいま見せるべきだとという判断をいれて、映画を見抜く力があったのだと思う。このおかげでどれだけ私たちはいい映画を見ることができたのか、それは巻末のリストを見るとよくわかる。天性ともいえるこの目利きは、配給だけでは飽き足らず映画の共同制作に乗り込む。ここでも堀越の独特の間合いがあるような気がした。それは惚れても、結婚はしないとでもいうべきものか。ほれ抜いて結婚してしまえば、おそらく監督に食われ、あっという間に吸い尽くされてしまうだろう。著者はあくまでも興行師としてスタンス、さらには人間としての最低の倫理観を最後の砦にすることで、監督たちと微妙な間合いを保ち、そこでいいものをつくり出す手助けをしていた。
圧巻はカラックスやキアロスタミという巨匠との個人的な交遊というような生易しいものではない、まさに互いを削りあうような真剣な付き合いの実相を語っているところである。映画をつくることがどれだけ大変なのかを知っているものだからこそ、このようにしてつきあっていったのだろう。
多くの映画を配給し、共同で制作するということをやりながら、育てるというところに目配りをして、映画美学校をつくり、さらには芸大で映画制作を教えるということまで軽々とやっているのもすごい。ここから数多くの若き映画作家が生まれ、そして濱口のようなアカデミー賞をとるような人材が生まれていく。これを日本映画界のためとか力まずに、さらっとやり抜けているところがこの人のすごいところである。
渋谷らくごもこの人のプロデュース、演芸にまで手を出し、そして一定の成果をあげているのを知って、やられたなという思いである。やはり一流のなせる技なのだろう。あとがきでかつての一緒に働いた人たちをぜんぶあげて感謝をのべる、こうした気持ちが、とんでもない大きな、そして幅広い仕事をなしとげることになったのだろう。
まさに痛快な人生、見事な生きざまを堪能した。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 新たな出会い | トップ | ペールギュント »

コメントを投稿

買った本・読んだ本」カテゴリの最新記事

カレンダー

2024年9月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30

バックナンバー