デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

彰義隊

2006-01-03 19:21:00 | 買った本・読んだ本
書名 「彰義隊」
著者 吉村昭  出版社 朝日新聞社  出版年 2005

一昨年石巻若宮丸漂流民の会が中心になって鳴瀬町で吉村昭氏の講演会を開催したとき吉村さんを仙台のホテルから会場まで案内した。車が仙台を出ようとしたとき、吉村さんが「このへんまで彰義隊は来たのですよね」とぽつんとつぶやいた。彰義隊と言えば上野しか思いつかず、仙台とどうやって結びつくのかピーンとこなかった。
吉村さんはこのときこの2ヶ月後に朝日新聞で連載されたこの「彰義隊」のことで頭がいっぱいだったのかもしれない。
仙台と彰義隊の関係について、この小説を読んで初めて知ることになる。吉村さんはこの上野の闘いで敗れた彰義隊が、北へ逃れながら維新政府と闘うなかで、盟主にたてまつられることになる輪王寺宮を主人公とすることで、実に彫りの深い歴史小説を書きあげた。皇族でありながら、鳥羽の闘いで敗走した徳川慶喜の助命を嘆願せざるを得なくなり、朝敵となり彰義隊の精神的支柱までなる、この輪王寺宮の流転の生涯が淡々と描かれる。秘められた歴史の事実を掘り起こしそれを小説として血肉化していくのは、吉村流なのだが、ところどころに、感情がほとばしるところがある。それはそもそも朝敵となる道を選ぶ大きな分岐点となる、維新軍の大将となる同じ皇族有栖川宮とのやりとり、同じ皇族でありながら勝ち戦にのぞむ尊大な態度、この侮蔑に必死に堪える輪王寺宮の描写には、おもわず輪王寺宮の気持ちが乗り移ってくるようだった。
前作の「暁の旅人」もそうだったが、勝ち組ではなく、あえて負け組につき、そして北へ北へと流されながら、負け組をあえて選んだ男たちへの限りない共感のようなものを感じる。
この小説は、戊辰戦争の敗北後の輪王寺宮のその後を描く。朝敵となったその汚名をそそぐために維新政府のなかで、さらなる屈辱を受けながら、自ら台湾でおこった叛乱を鎮圧するため志願し、そこでマラリアにかかり病死する輪王寺宮の晩年もまた切ない。負け組を選んだもの宿命なのかもしれないが、それを描くことで、輪王寺宮の流転の生涯は、さらに奥行きをもつことなった。
満足度(5点満点)4

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