デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

バフチン

2012-01-11 16:21:04 | 買った本・読んだ本
書名 「バフチン カーニヴァル・対話・笑い」
著者 桑野隆  出版社 平凡社(平凡新書) 出版年 2011

わが桑野塾の塾長が新書用に書き下ろしたバフチン論。入門書とうたっているので彼の文学研究理論の出発点から、ポリフォニー、対話、脱中心化という小難しいところから始まり、最初はちょっと手ごわいかった。ただバフチンのとても簡単ではあるが、生きた道をフラッシュバックのように挿入してくれたので、かなり人間くさいバフチンの姿も浮かび上がり、ずっと彼が身近になった。ヴィテブスクかカザフへとわたり歩き、しかも病魔と闘っていたということは知らなかった。そして自分が書いた論文を巻き煙草の紙に使ったとか、大変な愛猫家でもあったというエピソードも興味深かったし、ぐっと彼が近づいてきた感じがした。
彼の文学理論が、出発当初から、対話の精神に満ちあふれていたこともよく理解できた。文学も文学研究も常にそれが存在している社会や時代と関連づけなければならない、それも常に静止したものではなく、生きたものとして動きながら存在している、そこからポリフォニー、そして対話の思想が生まれてくることがわかる。
圧巻は5章の民衆の笑い、6章のカーニヴァルとグロテスク・リアリズムの笑いとカーニヴァル論であった。閉塞した時代状況のなかでこそ、こうしたダイナミックで民衆的な笑いを軸にした文化論というか、文化戦略に出会うと、こうしたところにしか活路はないということを思い知らされる。
バフチンが、有名なラブレーの端緒となる論文により、博士申請をしたとき、その審査会での彼の発言がこの書には引用されているのだが、これほどいまの時代を突き破るような心地よい、潔い、そして未来へ向けたことばがないのではないかという迫力に満ちているものであった。これを読んで、そして書き写していて、どれだけの勇気をもらえたことか。
ほんとうに素晴らしい一節である。
「「ジヴェレゴフ氏はわたしを[博識であると同時に]「とり憑かれし者」と呼びましたが、わたしはそれに異存はありません。わたしは「とり憑かれし革新者」であり、とてもささやかでつつましい程度においてかもしれませんが、「とり憑かれし革新者」なのです。「とり憑かれし革新者」が理解されることは、ごくまれです。[・・・]
わたしは、中世の笑いとは陽気でのんきで喜ばしい笑いであるということを、念頭においているわけではけっしてありません。中世の笑いは、闘いの武器の協力な手段のひとつでした。民衆は、笑いでも闘い、直接の武器-拳、棒-でも闘いました。拙論を赤い糸でつらぬいている、広場の民衆、これは、笑うだけの民衆ではなく、蜂起もする民衆そのものなのです。両者は緊密にむすびついており、いずれを欠いても不可能です。
これは広場の笑い、民衆の笑いであって、慰みの笑いとはなんら共通点を持っていません。慰みの笑いはまた別のタイプの笑いであって、殺すものであり、そこでは死がつねに浮上しています。[・・・]民衆の笑いは、闘いからそらせる陽気な笑いではなく、闘いとむすびついている笑いなのです。というのも、笑いの対象となっているのは、去り、新しい、別の、より大きな喜び、笑いに場所を譲るべきこの世界そのものなのです。
交替の喜び、すなわち永劫不滅を望み永遠のものであると自称し去ろうとしないものすべての闘い-これが基本理念なのです。これこそが、この笑いが語っているものなのです。この笑いは、その本質からして深く革命的なのです。」
慰みの笑いを求めるだけのいま、それを乗り越える闘う笑いこそ、いま必要なのである。それにしてもとり憑かれし革新者、なんて素晴らしいことばだろう。
桑野さんは、最初に読んだ方がいいと薦めているのが「ラブレー論」であると断言しているのも嬉しかった。
学生の頃、ほんとうに無理して買った「ラブレー論」、高価な本だったが、自分の本は赤線で真っ赤っかになった。それだけ刺激的な魅力的なことばに満ちあふれていた。やはりこういう閉塞した時代にはこうした活力ある本を一読することによって活路を生まれるのだと思う。
あらためてバフチンの凄さを思い知らされた一書であった。
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