デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

ユーラシア文明の旅

2014-09-14 17:34:11 | 買った本・読んだ本
書名 「ユーラシア文明の旅」
著者 加藤九祚  出版社 中央公論社(中公文庫) 出版年 1993

本書はなんとも贅沢な内容の本になっている。学者の森と題されたソ連の旅の記録は、1972年末8度目のソ連を訪れたときものだが、この旅はツリーリストビザではなく、ソ連科学アカデミーのビザで、まさに学者としてハバロフスク、ノボシビルスク、モスクワ、レニングラードの研究機関を訪れた記録、随所に学問する喜びが溢れ出ている。とくにのちの「天の蛇」につながるネフスキイーの娘さんを訪れた記録は、心情があふれでている。一度はこうした旅をしたかったななどと思ってしまう。その他に「文明の十字路」と「浮気な河」という著者のライフワークとなっていくシルクロード研究のなかでも核心となるサマルカンドやアムダリアの遺跡を訪ねたときの記録、またその歴史を概観するもの。これに加えてカザフ族の遊牧生活を紹介する論文、モンゴルを訪れたときの旅の記録、ムガール帝国の始祖パーブルの伝記なども収められている。
このところ匈奴や大月氏などの北方の遊牧民のことが気になっているのだが、氏のシルクロード研究は、こうした遊牧民にかなり注目しているので、最後に収められた「シルクロード文明抄」はとても興味深かった。
この本が出版されたのは1993年、ソ連が解体されたあとのものである。あとがきで「私は、ソ連社会にもう少し自由があれば、多民族国家としては結構よい社会なのに、とよく思ったが、しかしこれは所詮ないものねだりだったようだ。自由が増せば平等が危なくなるのは必定である。旧ソ連の崩壊にともなって、私自身も、自分を含めて人間の本性について甘すぎる考えだったことがわかった。つまり私は、旧ソ連の社会主義について幻想を捨て切れなかったことを告白しないわけにはいかない。例えばソルジェニツィンもあまり好きになれなかった。もちろん、そのことがわかったからと言ってどうなるものでもないけれども、ロシア革命という壮大な実験はいったいなんだったのかと思うと、一抹のさびしさを感じることは確かである。五年のシベリア抑留という異常な体験をした人間がこんなことを考えるとは、自分でも奇妙な気がしないでもない。要するに私は「理想」または「幻想」の好きなたちなのかもしれない」と書いているが、どこか共感を抱いてしまうし、いまの時点で読んでもなかなか重い発言なのではないかとも思う。


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