大福 りす の 隠れ家

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--- 映ゆ ---  第20回

2016年10月27日 22時56分52秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~Shou~  第20回




カケルが奏和の部屋から台所に向う廊下を歩きながら考えていた。

「あんな風に奏和に言ったけど、小母さんに言われたしなぁ・・・どうしよう・・・」 そう考えている時、ふと思った。

「あっ、でも、小母さんの言ってた、行っていいからねっていう事は、行きなさいってことじゃないよね。 行かなくてもいいってことよね。 小母さんに背いた事にはならないわよね。 うん、小母さんも忙しいんだから食べてから授与所に行こう」 歩きながら一人ごちた。


廊下から硝子戸を開けて台所に入るとテーブルで宮司が昼ご飯を食べていた。

「あれ? 小父さんお昼ご飯まだだったんですか?」 白い小袖に緋袴姿だが、ここの空間では小父さんと呼ぶ。

奏和との会話を聞かれていただろうかと思うところだが、取り立てて宮司に言わなくてもいいだろう。 特別なことではないんだから、と無かったことにした。

「ああ、今終わったよ。 小母さんが遅くなったから翔もお腹が空いてるだろ。 早くお食べ」 

言いながらカケルのお茶を用意しようと、急須を持ったのを見て「あ、自分でします」 すぐに宮司の手から急須を取り、宮司と自分の二人分のお茶を入れた。

椅子に座り、頂きますと手を合わせると「ああ、喉が渇いた」 そう言い、飲み頃になっていた味噌汁をゴクリと一口飲んだ。 次に小鉢に入れられた野菜から食べだした。
ポテトサラダの横に添えてあったプチトマト、ホウレン草のおひたし、蓮根のキンピラ。
食べ終えた宮司がその様子をお茶をすすりながらいつも思っていた疑問を投げかけた。

「翔っていつも野菜から食べるんだな」

「はい」 箸を止めて宮司を見た。

「希美さんは変わった食べ方を教えたんだな」 決してカケルの母親を否定して言っているのではない。

「やだ、小父さん。 今の若い女の子は野菜から食べるって知らないんですか?」

「え? なんだそれ?」 湯呑みをテーブルに置くと素っ頓狂な目を向けてきた。

「ほら、最近ってテレビで健康番組をよくやってるじゃないですか?」

「んん? あんまりテレビは見ないからなぁ」 腕を組み斜め上を見る。

「あ、そうでしたね。 健康番組の中でダイエットの事もよく放送されてるんですよ」

「ダイエット?」

「はい。 食事の時に野菜から食べると太りにくいらしいから良いんですって」 

宮司は腕を組んだまま、顔を突き出してその言葉を聞いたが、すぐに顔を引くと今の話がカケルに何の関係があるのかといった風に尋ねた。

「ダイエットって・・・翔には関係ない話じゃないか」

「え? 小父さん何言ってるんですか。 この歳って気を緩めるとどうなるか分かんないんだから。 うちの両親ってどっちも太ってるでしょ? だから私には絶対に太る遺伝子があるんだから。 特に気を付けなくちゃならないんです」 話しながらも食事を続けている。 気兼ねのない関係だ。

「何言ってるんだ。 翔はもっと肉を付けてもいいくらいだぞ。 それに希美さんくらいが丁度いいんじゃないか。 まぁ、良治君はちょっとお腹が心配だけどな」 立ち上がり食器を重ねだした。

「あ、小父さん置いておいて。 私が片付けるから」

「ああ、皿くらいは片付けるよ。 洗い物は頼むな」 食べた後の食器を重ねると流しの中に入れ振り返り言葉を続けた。

「ダイエットって言って、無理な事をしてるんじゃないだろうな?」 

憂慮わしげに尋ねた宮司を見ると、上目使いでカケルが答えた。

「大丈夫です。 ケーキも食べてますから」 

その返事を聞くとクスッと笑い

「それじゃあ、丁度いいくらいか。 じゃ、ゆっくりお食べ」 そういい残すと台所を出かけたが、思い出したように振向いた。

「あ、翔」 呼ばれ、顔を上げ宮司を見た。

「食べ終わったら奏和の部屋に行くんだぞ」 飲み込みかけた白米で喉を詰めるかと思った。

「小父さんまで言うんですか?」

「小父さんまで言うんじゃなくて、わしが言ったの」 人差し指を自分の鼻に当てた。

「え?」 

「渉に磐笛を教えてやるように、って奏和にわしが言ったの。 で、小母さんに今日の授与所のことは頼んでおいたの」

「なんでー!?」 箸を握りしめた。

「まぁ、やってごらんよ」 
あの時、カケルの独り言を聞いたなんて事は言わない。 この状況でそんな事を言ったらこの娘はもっとヘソを曲げかねない。

「やだ! どうして奏和に習わなくっちゃいけないの!」

「そんなこと言わないで、基礎だけ教えてもらいなさい」

「絶対いやだ」

「じゃあ、宮司命令だから」 言うとサッサと姿を消した。

「小父さん!」 と言った時にはもう遅かった。

「ずっるーい!」 でもここだけの話、奏和に都合のいい言い訳が出来た。 ふと思ってしまった。


食事を終え、食器を流しに運ぶとフゥーっと溜息をついた。

「どんな顔して部屋に行けばいいのよ」 さっきの自分の愚行を振り返った。

「あーあ、最低・・・」 

食べ終え食器を流しに運ぶと、スポンジに洗剤をかけ食器を洗いだした。

「吹きたいのは吹きたいわよ。 でも、目の前であんなに簡単に吹かれて、教えてなんて言えないわよ。 音楽“2”なんだもん・・・。 笛のテストなんて悲惨だったし、きっと吹いても音も出ないだろうしなぁ」 手を止め、どこを見るという事なく前を見たが、そこに答えはない。 
はぁ、と息をつくと今度は考えの方向が変わる。

「大体、なんで奏和なのよ。 小父さんが奏和に習って、私に教えてくれればいいのに」 部屋に行きたくないが上、他に洗うものはないかと洗剤の付いた手で台所を見回したが、雅子が全部片付けていた。

「いつもの事だけど、小母さん忙しいのにキッチリしてるな」 諦めて洗剤の付いた食器をすすぎ始めた。
最後の食器をすすぎ、水きりに入れたとき

「遅いんだよ」 後ろで声がして振り返ると、台所と廊下の仕切りのガラス戸の柱に背をもたれかせ、腕を組んでいる奏和が目に入った。

「なによ」 流しに向き直り、台拭きで流しまわりを拭き始めた。

「もっとチャッチャと洗えない?」 言われても返事をせず、台拭きを洗いだした。

「おい、無視かよ」 台拭きを絞ると、今度は食器を拭こうと布巾に手を伸ばしかけたのを見て

「時間がないんだから、そんなのおいとけよ」 言うが、これまた無視。

「宮司命令が出たろ?」 チラッと奏和を見ると布巾を持ち、もう片方の手に食器を持った。

「小父さんに言うから」 持った食器を拭きだす。

「何を?」

「小父さんが奏和に習って、そのあと小父さんから習う」

「は?」 背中で柱を押すように身体を跳ね上げた。

「別にいいでしょ?」 拭いた食器をコトンとテーブルに置いて、また濡れた食器を取ろうとした時

「バカ言ってんじゃないよ」 言うと大股で歩いて来てカケルの手から布巾を取り上げ、その手を引いて歩き出した。

「った! 痛いじゃない!」

「お前のセリフの方がよっぽどイタイわ」

「離しなさいよ!」

「お前なぁ、俺の立場を考えろよ」 喋りながらも歩を進めている。

「なによ! 奏和に立場なんてあるわけないじゃない! 離しなさいって!」

「俺が親父に教えるって、どうやって教えるんだよ。 考えられないだろうが」 閉められていた襖を開けると中に入った。

「ほれ、座れ」 足元には盆の上に置かれた磐笛があった。

「一度でいいからやってみろよ」 

腕を組んでソッポを向くが、部屋を出て行く気になれない。 いや、出て行ったらもう二度と教えてもらえないかもしれないと言う不安がどこかにある。

奏和が座り込むと畳をポンポンと叩いた。 座れという事だ。

「いやだ」 更にソッポを向く。

「じゃ、立ったままでもいいけどな」 またもや片方の口角が上がった。

「まず、磐笛は腹式呼吸で吹く。 絶対に胸からの息で吹くなよ。 それから―――」 ここまでいうとカケルが奏和を見下ろした。

「ちょっと待ってよ。 この状態で話を進めていくわけ?」

「イヤなら座れよ」 

「座らない」 またソッポを向いたが、先程よりはマシな顔の角度だ。

「そっ、じゃ話を進めるからな」 

「腹式呼吸なんて出来ない」 まだ明後日を向いている。

「え? ダイエットしてんだろ?」 言われ驚いた顔をした。

「なんで知ってるのよ!」 慌てて奏和を見た。

「親父から聞いた」 
台所を出た宮司は奏和の部屋に行って話したのだ。 とは言ってもそれが目的ではない。 カケルの昼ごはんが終わるであろう時間を言いにきたのだ。

「もう、小父さんったら・・・で? ダイエットとどう関係があるのよ」

「教えてやるから座れば?」 大きな溜息をつくと渋々といった感じで座り込んだ。

「その出っ腹には腹式呼吸が効くんだぜ」 カケルのお腹を指差した。

「なっ! 見たこともないのに何言ってくれるのよ!」 思わず両手でお腹を隠した。

「ウソだよ。 あ、腹が引っ込むのはホント。 でも、親父も言ってたぞ、翔にダイエットは必要ないのにって」

「仕方な・・・ダイエットは女の永遠の課題なの!」 
何を言いかけて止めたのだろうか、気になったものの、今はそんなことはどうでもいい。

「じゃ、丁度いいじゃん。 腹式呼吸でその永遠の課題とかを、クリアしとけばさ」 ふて腐れるカケルを見て言葉を続けた。

「腹式呼吸なんて簡単に出来るから安心しな。 取りあえず、むやみに吹かない。 長く後の音を引いていく感じで吹く。 それと・・・リラックスが一番かな? それを頭においておくだけでいいから。 それだけ」 頭を傾げて唇を両方に引いた。

「え? それだけって?」


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