鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその1927~風神雷神2

2020-05-11 16:21:55 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、風神雷神2です。

原田マハのアート小説「風神雷神」の下巻。

上巻の感想で、いくら何でも史実に反し過ぎだろう!と本に文句を言いつつも、次の展開が楽しみで仕方がありません、と書きました。

前回ネタバレを心配して具体的な流れについて触れませんでしたが、改めてAMAZONの内容紹介を読んでびっくり。
ほとんどの展開が書かれているではありませんか!
これなら遠慮なく書けます。

天正少年使節団に同行してヴァチカンに赴いた俵屋宗達は、ダビンチの「最後の晩餐」やミケランジェロの「天地創造」に感激した後、少年カラヴァッジョと出会います。
時代が違いすぎてダビンチやミケランジェロと直接会えなかったのは残念ですが、作品を通して彼らの天才ぶりを知るあたりはさすがにアート小説。
そしてカラヴァッジョとの運命的な出会い。
その後一団は日本への長い帰路につくところで物語は終わります。

著者は何を目指してこの作品を書いたのでしょうか?
宗達の代表作・風神雷神図屏風に登場する風神と雷神に相当する神が西洋にもいた、というたったひとつの事実から構想を練り上げたのかもしれません。
 ※サブタイトルにあったユピテルとアイオロスがそれ。

もし本当に宗達がダビンチやミケランジェロの作品を目にした上、油彩を習っていたら、帰国後の作品に大きく影響したことでしょう。
琳派の台頭どころか、日本画の枠を超えた作品を残したはず。

あまりに奇をてらい過ぎて収拾が付かなくなった感があります。
物語の最後に、ダビンチやミケランジェロの作品を宗達がどう消化し、作品に生かしたかを著者なりの視点で書き加えると違った物語になったかもしれませんが、かなり無理があります。
著者のファンとして、久しぶりに満足できない作品でした。
残念。

ちなみに物語に登場したカラヴァッジョはまだ画家見習いのため、その後の代表作は紹介されませんでした。
昨年偶然にもカラヴァッジョの特別展を観に行っていたため、彼の作品の数々と、彼の数奇な生涯を思い出しながら、物語で描かれている以上に感慨を持って読むことができました。

最後に本書を読んで勉強になったことを書きます。
天正少年使節団がバチカンを訪問する旅がどんなものだったのかを実感することができました。
蒸気機関さえない風のみが頼りの帆船での旅というのは、何か月も季節風を待って次の港に移動するということを繰り返したのです。
そんな気の遠くなるような旅だったとは知りませんでした。
逆を言うとイエズス会の宣教師たちもそういう大変な旅の末に日本に赴いたのです。
天正少年使節団は、長崎からマカオ、インドのゴア、大西洋に浮かぶ島セント・ヘレナを経て、ようやくポルトガルのリスボンに到着。
ここからは陸路でスペインまで行き、地中海を船でイタリアまで移動。
そしてようやくヴァチカンにたどり着きました。
出発から3年もかかったそうです。
往復で6年ですか。
帆船での旅ってこういう時間的スケールの旅だったのですね。
まさに命がけ、身内とは今生の別れとなったことでしょう。
この時間的スケールと他力に頼った航法は現代の宇宙の旅に似ています。
はやぶさなどの宇宙探査機は、惑星の重力を利用するスイングバイという航法を屈指することにより自らのエネルギーを使わずに速度を増減させながら航行しています。
はやぶさがイトカワのサンプルを持ち帰るのに要したのは7年でした。
当時の旅を知ると、数年がかりの有人惑星間航行なんてごく当たり前に実現するように思えてなりません。



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