鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその2133~きのこの自然誌②

2022-09-09 12:37:10 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「きのこの自然誌」②です。

「きのこの自然誌」の後半について書きます。

・胞子の形や大きさが種によって大きく違う。
 大粒の胞子でトビムシが腹いっぱい食べていたことが観察されたものがある。
 くさい臭いを発するキノコは自らの表面を溶かして粘着性を持たせ、そこに胞子を忍ばせて
 ハエやナメクジに付着させる。
 胞子の入ったケースが雨に当たると破裂し、胞子が飛ばされ、その際に胞子から伸びた長い糸が
 草に巻き付くことで生息域を広げるキノコもある。

・胞子の蒔き方によりキノコの進化を推定できるそうで、胞子の種類とキノコの種類の相関関係に
 ついて研究をすると面白いのでは、と書いている。
 本書の新装版が発行されて25年。
 これを読んだ学生の中にはその研究を志した人もいたかもしれない。

・アラスカのリスはキノコを食べ、越冬用に貯める。
 寒帯のためドングリがなる木が少ないからだろうか。

・トリュフはローマ時代に食べられた記録がある。
 ブタが必死に掘り出して食べることから人も食べるようになったそうで、
 トリュフを見つける訓練を受けた犬は高値で取引されている。
 日本でも数か所トリュフが獲れる所があるが、美味しくない種類。
 著者はデパートで売っているのを見かけたが、余りに高価だったので買わずに帰ったそう。

・菌糸や菌根の話では目に見えない地中の姿を知ることができた。
 マツタケはマツの若い根に菌根をつくり、刺激をすることで根を伸ばさせて共に成長する。
 さらに抗生物質を出して敵対する生物たちを除外することでマツを助ける。
 こうしてマツとマツタケの良好な関係を築く。
 ただしマツタケは他の菌類との競い合いになると勝てないため、栄養がなく水分の乏しい
 厳しい環境だけで育つ。

・キノコ(子実体)の下には菌糸層という菌糸の塊があり、大きな菌糸層から大きなキノコが
 育つそう。
 大きなモミタケの下を掘ったところ、70cmも下に40cmもの厚みの菌糸層があった 
 
・著者はランとキノコ(菌類)の関係を次のように書いている。
 「ランの仲間はすべて根の細胞の中に菌を取り入れ、内生菌根をつくって共生している
 典型的な菌根植物」
 共生とは聞こえが良いが、思い切り寄生しているものまでいる。
 細い根を無くし、葉緑素を無くし、すべてを菌に頼って養ってもらっているのだ。

・植物と菌の共生関係について語ったあとにヒトの暮らしに言及している。
 ヒトはウシやブタ、ニワトリを飼い、イネやムギ、野菜をつくり、それらを食べて暮らして
 いるが、これも立派な共生関係だというもの。
 ヒトは家畜や作物以外を消化する能力を失っており、それら無しには生きていけなくなって
 いる。
 逆に家畜や作物はヒトを利用することによってかつてないほど大繁栄している。
 これこそ共生関係に他ならない。
 ナルホド!
 星新一の作品に、地球を訪れた宇宙人の報告によると地球の支配者はネコで、ヒトが
 奴隷として身の回りの世話をしている、というのがあるのを思い出した。
 これも一種の共生関係といえる。

・世界中にいろいろなキノコが生えているがどこの国も決まった種類しか食べない。
 国内においても地方により決まった種類しか食べない。
 どんなに美味しいと勧めても食べないそう。
 知らないキノコは食べないという習慣のためか?

・植樹するときは適合した菌を含んだ土壌ごと移植すると定着率が高まる。
 細根を菌糸が覆うことで、樹と菌が互いに必要なものを交換するwin winの関係が成立する。
 さらに菌が出す抗生物質でカビや雑菌から樹を守る。
 化学肥料を与えることで樹の見かけは立派になるが、地中では菌を弱らせ根を傷める。
 力の弱い雑菌や害虫により簡単に樹が枯れるのは菌と根を弱らせたからと気づくべき。
 樹を守るためには菌と根を守る地道な土づくりが大切。

あとがきの日付から本書が書かれたのがちょうど40年前であることを知りました。
現在はDNA解析の技術が進み生物の進化の過程が次々解明されていますが、当時は形態から菌類の進化過程を推理していた記述を思い出しました。

解説文には興味深いことが書かれていました。
数年前に話題になった「サピエンス全史」に本書と同じく、家畜や作物はヒトと共生関係にあり、家畜や作物はヒトを飼育・利用しているとも言える、ということが書かれているそうです。
科学者というのは洋の東西を問わず、ヒトを客観的に見る人種であることを改めて実感しました。

本書は確かに名著として復刻する価値に溢れました。
あー面白かった。


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