元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「天守物語」

2024-09-13 06:29:33 | 映画の感想(た行)
 95年松竹作品。公開当時に“歌舞伎も知らず泉鏡花も読まない連中の場違いな批評なんて気にする必要はない”ということを、某雑誌で某評論家が書いていたようだが、こんなことを平気で言う者は映画を軽んじた能天気な御仁だったのだろう。歌舞伎も鏡花も知っていなければこの映画を観る資格はないとでも言いたいのだろうか。歌舞伎の“カ”の字も知らない観客をも圧倒させるような娯楽性を獲得しようとするところに、映画の存在価値があるのではないのかな。

 さて、5代目坂東玉三郎の3作目の監督作(ちなみに第1作は91年製作の「外科室」で、2作目は93年の「夢の女」)は初めて自身が出演し、泉鏡花の戯曲を映像化している。魔性のものが棲む姫路城の天守閣の主・富姫(坂東)と若侍(宍戸開)の関係を描く。



 94年の上演版を忠実になぞったとのことだが、大部分は舞台版とやらにおんぶに抱っこのものでしかないと想像する。これは舞台の再現に過ぎず、映画としての発想も工夫も何もない。舞台版を観ればこの映画の存在理由はないと思われる。いわば舞台版の宣伝用フィルムではないか。

 それにしても、セリフまわしから演技まで、これほど映画と合っていない内容も珍しい。映画を見慣れている人なら、一見して“こりゃおかしい”と思うはずだ。舞台らしい展開や仕掛が、映画の面白さとして何も機能していない。言い換えれば、これを見ておかしいと思わない作者の神経が映画向けでないのだ。

 とにかく、作者には“小津安二郎監督の歌舞伎のドキュメンタリー映画でも見て勉強したら?”とでも言いたくなった。脇を固めるはずの宮沢りえや隆大介も、何やら手持ち無沙汰な感じだ。なお、本作の評判が芳しくなかったことから、玉三郎はこれ以降は映画演出から手を引いている。賢明な判断だったと言うべきかもしれない。

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