今年(2012年)2月にPIONEERのハイエンド部門のブランドであるTADのシステムを試聴したことを書いたが、あのときはスピーカーを駆動するメインアンプに同社製品ではなくACCUPHASEのモデルが起用されていた。今回開かれた試聴会にはメインアンプにもTAD製がセッティングされていたので、フルラインナップでのデモになる。
前回に引き続きSACDプレーヤーにはTAD-D600(260万円)、プリアンプにTAD-C600(300万円)、スピーカーにはTAD-CR1(ペアで380万円)が起用され、メインアンプにはTAD-M600(500万円)を使用。いずれも国産機としては超ハイエンドに属する価格帯である。それに加え、スピーカーの下位モデルに当たるTAD-E1(200万円)も一緒に紹介されていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/39/bd/f79dc4e49c98ddd17d5c49319d146d86.jpg)
TAD-CR1での音出しは、相変わらず印象が悪い。コクも潤いもない、パサパサの音だ。前回はACCUPHASE製のメインアンプで駆動されていたせいで中高域に若干の艶っぽさが見られたが、今回のオールTADのシステムでは色気も明るさもない。単に無機質な音像がぎっしりと並んでいるだけだ。
このスピーカーを一般家庭に入れたいと思う者が果たしているのか、大いに疑問である。これは“業務用の音”だ。それもレコーディングスタジオやコンサート会場ではなく、何かの“研究室”で使われるべきものであろう。
さて、実を言うと今回の目当てはTAD-CR1でなく、TAD-E1の方だ。こっちのスピーカーも高価だが、TAD-CR1ほどではない。それにメーカー関係者が“海外ブランドの同価格帯製品に対抗するために作った”と言っていることもあり、少しは異なるアプローチが成されているのではないかと期待していたのである。
実際に聴いてみると、なるほど、かなり違う。音のエッジを尖らせてメカニカルな感触を強調したTAD-CR1に比べて、けっこう“有機的”な音作りが展開されている。音場の広がりは自然で、ヘンに刺激的な素振りも見せず、粛々とサウンドを送り出しているという感じだ。もちろん、解像度や情報量も水準以上を確保している。これなら、仕事で疲れて帰ってきた後に自室でゆっくりと付き合えるだろう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/40/c27b4a3b33893bf144bfb95742979ea4.jpg)
しかし、本機が同じ価格セグメントに属する英国B&W社の802DやTANNOY社のYorkminster、デンマークのDYNAUDIO社のSapphireといった海外製品を差し置いて多くのハイエンドユーザーに選ばれるのかというと・・・・そうは思わない。なぜなら、TAD-E1には欧米ブランド品に比肩しうるような、リスナーを惹き付ける強い魅力というものがないからだ。有り体に言えば、開発者の顔が見えないのである。
TAD-CR1とTAD-E1は同じエンジニアチームが手掛けているというが、それが信じられないほど音が違う。つまり“TAD-CR1では音がキツ過ぎると感じるリスナーもいるかもしれないから、TAD-E1では少し柔らかめにしてみた”という場当たり的な姿勢しか窺えない。
こういう高額製品になると、ユーザーは性能の良さもさることながら、機器に対して“物語性”を要求する。それは伝統的なサウンドデザインや卓越したエンジニアの手腕といったものだ。匠の技がこの音に凝縮されている・・・・という筋書きこそがプラスアルファの付加価値を生み出す。それを捨象した商品が既存のブランド品に勝つはずもない。
TAD-E1は質が高くて聴きやすいが、B&Wの空間まで丸ごと表現するようなパフォーマンス能力や、TANNOYのソフトで温度感の高い音像再生などの高いセールスポイントはない。少なくとも、海外では認められないだろう。興味を示すのはせいぜい国内のサウンドマニアだけだと思われる。
前にも書いたが、長いキャリアを誇るPIONEERが、こういうポリシーもアイデンティティもない高額製品をリリースしていることは誠に情けない。昔、同社が展開していた上級ブランドのEXCLUSIVEのような、サウンドイメージを確立した上での商品展開を望みたいものだ。
前回に引き続きSACDプレーヤーにはTAD-D600(260万円)、プリアンプにTAD-C600(300万円)、スピーカーにはTAD-CR1(ペアで380万円)が起用され、メインアンプにはTAD-M600(500万円)を使用。いずれも国産機としては超ハイエンドに属する価格帯である。それに加え、スピーカーの下位モデルに当たるTAD-E1(200万円)も一緒に紹介されていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/39/bd/f79dc4e49c98ddd17d5c49319d146d86.jpg)
TAD-CR1での音出しは、相変わらず印象が悪い。コクも潤いもない、パサパサの音だ。前回はACCUPHASE製のメインアンプで駆動されていたせいで中高域に若干の艶っぽさが見られたが、今回のオールTADのシステムでは色気も明るさもない。単に無機質な音像がぎっしりと並んでいるだけだ。
このスピーカーを一般家庭に入れたいと思う者が果たしているのか、大いに疑問である。これは“業務用の音”だ。それもレコーディングスタジオやコンサート会場ではなく、何かの“研究室”で使われるべきものであろう。
さて、実を言うと今回の目当てはTAD-CR1でなく、TAD-E1の方だ。こっちのスピーカーも高価だが、TAD-CR1ほどではない。それにメーカー関係者が“海外ブランドの同価格帯製品に対抗するために作った”と言っていることもあり、少しは異なるアプローチが成されているのではないかと期待していたのである。
実際に聴いてみると、なるほど、かなり違う。音のエッジを尖らせてメカニカルな感触を強調したTAD-CR1に比べて、けっこう“有機的”な音作りが展開されている。音場の広がりは自然で、ヘンに刺激的な素振りも見せず、粛々とサウンドを送り出しているという感じだ。もちろん、解像度や情報量も水準以上を確保している。これなら、仕事で疲れて帰ってきた後に自室でゆっくりと付き合えるだろう。
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しかし、本機が同じ価格セグメントに属する英国B&W社の802DやTANNOY社のYorkminster、デンマークのDYNAUDIO社のSapphireといった海外製品を差し置いて多くのハイエンドユーザーに選ばれるのかというと・・・・そうは思わない。なぜなら、TAD-E1には欧米ブランド品に比肩しうるような、リスナーを惹き付ける強い魅力というものがないからだ。有り体に言えば、開発者の顔が見えないのである。
TAD-CR1とTAD-E1は同じエンジニアチームが手掛けているというが、それが信じられないほど音が違う。つまり“TAD-CR1では音がキツ過ぎると感じるリスナーもいるかもしれないから、TAD-E1では少し柔らかめにしてみた”という場当たり的な姿勢しか窺えない。
こういう高額製品になると、ユーザーは性能の良さもさることながら、機器に対して“物語性”を要求する。それは伝統的なサウンドデザインや卓越したエンジニアの手腕といったものだ。匠の技がこの音に凝縮されている・・・・という筋書きこそがプラスアルファの付加価値を生み出す。それを捨象した商品が既存のブランド品に勝つはずもない。
TAD-E1は質が高くて聴きやすいが、B&Wの空間まで丸ごと表現するようなパフォーマンス能力や、TANNOYのソフトで温度感の高い音像再生などの高いセールスポイントはない。少なくとも、海外では認められないだろう。興味を示すのはせいぜい国内のサウンドマニアだけだと思われる。
前にも書いたが、長いキャリアを誇るPIONEERが、こういうポリシーもアイデンティティもない高額製品をリリースしていることは誠に情けない。昔、同社が展開していた上級ブランドのEXCLUSIVEのような、サウンドイメージを確立した上での商品展開を望みたいものだ。