元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ただ悪より救いたまえ」

2022-01-15 06:56:39 | 映画の感想(た行)

 (英題:DELIVER US FROM EVIL)ジャンルとしてはいわゆる極道物なのだが、こういうネタを扱っても韓国映画は邦画の上を行っている。正直言って、本作には欠点はある。だが、勢いの強さは多少の瑕疵を覆い尽くしてしまう。そして舞台設定の巧みさや、キャストの存在感は際立っており、観た後の満足感は決して小さいものではない。

 暗殺のプロとしてその筋から絶大な信用を得ているインナムは、引退前の最後の仕事として日本でヤクザの是枝を始末する。ところが是枝は在日韓国人で、その弟分であるレイは冷酷な殺し屋だった。レイは関係者を次々に血祭りに上げ、インナムを探す。一方、インナムの元恋人は彼と別れた後に娘を産みタイで暮らしていたが、娘は地元のマフィアに誘拐され彼女も殺されてしまう。インナムは娘を救うためタイへ渡り、トランスジェンダーのユイの協力を得て、組織に戦いを挑む。そしてレイもタイに到着。三つ巴のバトルが勃発する。

 インナムと娘の関係はリュック・ベッソン監督の「レオン」を彷彿とさせるが、あれほどの深みは無い。それよりも、2人の濃すぎるキャラクターが画面上に相対する絵柄自体が訴求力が高い。片や泥臭くても確実に目的を達する仕事人のインナムと、片や血に飢えた殺人鬼であるレイとの対比が、強烈なコントラストを生み出す。

 この2人の行くところ、まさに死体の山が築かれる。やがて当初の目的も忘れたかのように、彼らは戦いのための戦いに明け暮れる。ただし、怒濤のようにアクションを繰り出していくというわけではない。けっこう“中休み”もあり、そこが不満な点なのだが、その分終盤の立ち回りを充実させており、結果として作品のヴォルテージは落ちていない。思いのほか静かなラストも効果的だ。

 ホン・ウォンチャンの演出は中盤にまどろっこしい部分もあるが、活劇場面はうまくこなしている。特にタイの市街地を舞台にしたカーアクションの迫力には驚いた。そして何といっても、ファン・ジョンミンとイ・ジョンジェの両御大の存在感が映画の重量感を押し上げている。観ていてゾクゾクするものを感じた。

 ユイに扮するパク・ジョンミンは抜群のコメディ・リリーフだし、豊原功補と白竜も画面に色を添える。ポン・ジュノの「パラサイト 半地下の家族」(2019年)でも撮影を担当したホン・ギョンピョによる、熱気がこちらにも伝わってくるような暑苦しいタイの風景も魅力的。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 岩波ホールが閉館に。 | トップ | オルテガ・イ・ガセット「大... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(た行)」カテゴリの最新記事