元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「きみの色」

2024-09-29 06:32:57 | 映画の感想(か行)
 これは面白くない。とにかくシナリオの出来が悪すぎる。そしてアニメーション技術も及第点には達していない。監督の山田尚子が2016年に手掛けた「映画 聲の形」は、食い足りない部分は多々あるものの、主人公の造型と卓越したアイデアが満載の映像処理により見応えのある作品に仕上がっていた。だからこの新作も期待したのだが、完全にハズレだったようだ。

 全寮制のミッションスクールに通う日暮トツ子は、子供の頃から人間が“色”として見えるという特殊な感性を持っていた。そんな彼女は、同じ学校に通っている作永きみが気になって仕方が無い。何しろトツ子の目からは、きみは美しい青に“見える”のだ。しかし、きみは突然に学校を辞めてしまう。きみを探すトツ子は、街の片隅にある古書店でやっと彼女を見つける。そこに居合わせた音楽好きの影平ルイと意気投合したトツ子は、3人でバンドを組むことになる。



 トツ子はある種の共感覚の持ち主なのだろうが、人間自体に“色”が付いて見えるというのは、無理筋の設定だ。相手をある程度知ってから“色”を認識するのならば分からなくもないが、最初から“色合い”で付き合うかどうかを決めるなんてのは、独善に過ぎないだろう。きみが退学した理由は最後まで示されないし、そもそも生徒が学校からエスケープすれば真っ先に保護者に連絡が行くはずだが、それも無し。

 きみが店番をしている古本屋は、路地裏のそのまた奥にあり、現実感はゼロだ。ルイの住処は携帯電話の電波も届かない離島で、そこにある古い教会を3人は練習場所にするのだが、これも浮世離れしている。要するにこれは、私が最も苦手とする“若年層向けのファンタジーもの”ではないか。

 それでも主人公たちのキャラが好ましく、なおかつ3人によるバンドのサウンドが素晴らしければ許せてしまうのだが、それも不十分。トツ子は身勝手な理由で修学旅行をキャンセルするし、きみは何を考えているか分からない。ルイの家庭環境は微妙みたいだが、それは詳述されないし、本人の中身はどうなのかも掴めない。学園祭でのバンドのパフォーマンスは観ていて一向に盛り上がらないし、楽曲のレベルも低い。つまりは見せ場が無いのだ。

 舞台は長崎市をモデルにしているらしいが、あの町に住んだことのある身から言わせれば、ほとんど魅力が出せていない。とにかく映像に奥行きが無く平板である。色遣いもパステルカラーのパッチワーク(?)に終始して陰影に乏しい。極めつけはMr.Childrenによるエンディングテーマで、それまでの映画の雰囲気とまったく合っていない。ひょっとして作者はミスチルのファンなのかもしれないが、この起用は失敗だったと言わざるを得ない。

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