元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ラストマイル」

2024-09-28 06:34:56 | 映画の感想(ら行)
 取り敢えず最後まで退屈せずにスクリーンに向き合えたが、正直“こういう映画の作り方ってアリなのか?”という違和感を拭いきれない。確かにカネは掛かっているものの、これは地上波か配信でテレビ画面で鑑賞すべきシャシンではないかと思う。しかも、これが最近の(実写の)邦画では珍しくヒットを飛ばしているという事実を見るに及び、日本映画を取り巻く環境について改めて考え込んでしまった。

 世界最大のショッピングサイトが仕掛けるイベントの一つである11月のブラックフライデーの前夜、関東物流センターから一般消費者に配送された荷物が爆発し。犠牲書が出るという事件が発生。さらに同様のアクシデントは連続して起こり、当該サイトや運送業者は窮地に陥る。関東センター長に着任したばかりの舟渡エレナは、チームマネージャーの梨本孔と共に解決を図ろうとするが、やがて事件の背景には数年前の労務災害が関係していることが明らかになる。



 塚原あゆ子の演出はスムーズで、物語が滞ることはない。野木亜紀子による脚本も、散りばめられた伏線はほとんど回収され、大きな瑕疵は無いように見える。しかし、ここで取り上げられている物流業界やネット通販関係の中に蔓延するブラックな様態とか、儲け主義を優先するあまり人権が軽視されている社会的風潮とかいった重大なモチーフに思いを馳せる観客は、ほとんどいないだろう。なぜなら、これはTVドラマの拡大版とほぼ同じ立ち位置で作られているからだ。

 私は本作を観るまで知らなかったのだが、これはTBSの人気ドラマ「アンナチュラル」及び「MIU404」と世界線で起きた事件を扱っているらしい(私はどちらも未見で内容も知らない)。だから、脇のエピソードに必要以上にスポットが当たっており、意味も無く配役も豪華だ。元ネタのドラマを少しでも関知している向きならば敏感に反応してしまうのだろうが、そうではない私は不自然としか思えない。だから、映画としては物足りない。

 本気で社会派の題材を扱おうとするならば、テレビ版に寄りかかったような余計な“お遊び”は不要だ。もっとも、そうなると広範囲な観客は呼べないという意見もあろうが、正攻法を突き詰めて高評価を得るようなレベルまで引き上げていれば、それはそれで存在価値がある。

 及び腰な姿勢でライト層にアピールすればそれでヨシとする送り手と、映画に多くを求めていない観客との“共犯関係”が罷り通っている状況では、韓国映画あたりにはとても追いつかないだろう。主演の満島ひかりと岡田将生は悪くはないが、彼らとしては(特に満島は)“軽くこなした”というレベルだろう。他のキャストは多彩だが、何やら“総ゲスト出演”という空気は拭いきれない。
コメント
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