元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「団地」

2016-06-13 06:28:26 | 映画の感想(た行)

 観ている間は退屈しないが、鑑賞後の印象は強いものではなく、それどころかヘンな後味が残る。だいたい、有名な原作を取り上げているわけでもないオリジナル脚本で、この企画が通ったこと自体、とても不思議だ。何か“裏の事情”でもあったのだろうか(笑)。

 商店街の一角で営んでいた漢方薬店を畳み、住居を兼ねた店舗まで売却して団地に移り住んだヒナ子と清治の夫婦。清治はすでに年金生活に入っており、ヒナ子はスーパーのレジ打ちのパートに出ている。とはいえ漢方薬の材料と製造用の道具は持参しており、今でも清治の作る薬を求めにやってくる謎めいた男・真城のために、便宜を図っている。

 そんな中、団地の自治会選挙に立候補した清治だが、あえなく落選。期を同じくして彼は姿を消してしまう。落ち込んだ清治は単に引き籠もっていただけなのだが、団地内ではヒナ子が清治を殺して死体を隠しているという噂が流れ、それを聞き付けたテレビ局まで取材に訪れる。一方、真城は大口の注文を持ちかけ、清治はそれに対応している間に事態は思いがけない展開を示す。

 阪本順治監督には「鉄拳」(90年)という怪作があるが、序盤のお膳立てが終盤に全てひっくり返されるという意味では、本作も似たようなものだ。しかしながら、今回の人情喜劇から“超大作”へのワープというギャップは、今までになく大きい。問題は、荒唐無稽な設定をフォローするような作劇が上手く機能していない点だ。

 まず、前半から時制をバラバラにしているのはマイナスだ。ただの小細工にしか見えず、主人公の夫婦に観客が感情移入することを妨害している。そもそも、これでは彼らが団地に引っ越してきた理由である“悲しい事実”が軽視されているように見えてしまう。向かいの棟に住む中学生が虐待されているというエピソードは尻切れトンボのまま終わり、ロン・ハワード監督の「コクーン」(85年)にも通じるようなラスト近くの扱いにしても、結局何がどうなったのか分からない。

 ならばタイトルにもある団地の雰囲気や人間模様がよく出ていたかというと、これも不発だ。私も子供の頃から何度も団地住まいを経験しているが、大量の床下収納が可能な団地なんて見たことが無い。漢方薬の材料等が搬入可能であるという時点で、団地の範囲を逸脱している。また自治会選挙に複数が立候補して、落ちた者が悔しがるということは、実際はほとんど無いだろう。自治会長なんて(何かの下心がない限り)誰もやりたくないものだ。少なくとも、先日観た是枝裕和監督の「海よりもまだ深く」における団地の描写とは雲泥の差があると言って良い。

 主人公夫婦を演じる藤山直美と岸部一徳をはじめ、大楠道代、石橋蓮司、斎藤工、濱田マリ等の濃い面々が揃い、それぞれ個人芸で笑わせてはくれるのだが、ストーリー自体がこの有様では何やら寒々とした雰囲気になる。大阪の団地という設定ながらロケは栃木県足利市で行われたというのも、何やら違和感が漂う。各キャストの“持ち芸”を楽しみたい観客以外には、あまり奨められないシャシンだ。

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