元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「愛と喝采の日々」

2022-02-21 06:29:45 | 映画の感想(あ行)
 (原題:The Turning Point )77年作品。70年代後半に日本の興行界で“女性映画”のブームがあったらしい。しかし、本来の意味での“女性映画”は、戦後間もない頃のアメリカ映画のトレンドの一つであり、70年代の映画シーンにおいては“公認”されていない。ただ、当時は所謂“翔んでる女”だの何だのといった流行り物があり、配給会社がそれに乗っかっただけの話だろう。もっとも、当時の“女性映画”には上質なものが目立ち、そういう傾向の作品を興行側でプッシュしてくれたのは有り難いとも言える。本作もその中の一本だ。

 オクラホマシティで開かれたアメリカン・バレエ・カンパニーの公演を、地元の主婦ディーディー・ロジャースとその旦那ウェインと子供たちが観に来ていた。実は彼女は昔このバレエ団のダンサーであり、センターの座を狙えるほどの腕前だったのだが、今は引退して夫と共にバレエ教室を経営している。



 ディーディーはトッププリマのエマと20数年ぶりに再会するが、その夜開かれたパーティで、エマはバレエの才能を有するディーディーの長女エミリアにプロダンサーになることを強く勧める。ディーディーとエマは、かつて大舞台での主役やウェインをめぐって争ったライバル同士だった。複雑な思いに駆られるディーディーは、それでも娘をニューヨークに送り出す。名シナリオライターであった、アーサー・ローレンツのオリジナル脚本の映画化だ。

 要するに、人生の分岐点において仕事の第一線を選んだ女性と、家庭に入ることを選択した女性との確執が題材になっているのだが、正直言ってこの御膳立ては古い。現代ならば、仕事と家庭を両立できるような方法はいくらでも考えられる。ただ、主人公二人が現役だった頃には選択肢は多くはなかったのだ。

 とはいえ、ドラマの図式は時代を感じさせるものの、この“仕事と家庭”という対立概念(のようなもの)は今でも消え去ってはいない。仕事一筋に生きる者も、家庭を第一に考える者も、もっと別の生き方があったのではないかと思い返すことはある。しかしながら、しょせんは自分で選んだ道だ、折り合いを付けてポジティヴに進むしかない。映画が主張したいことは、要するにそのことなのだ。

 このシンプルとも言える筋書きを映画的興趣を大いに高める次元にまで押し上げているのは、まずはキャスティングだ。主演はシャーリー・マクレーンとアン・バンクロフトで、まさに横綱相撲級の演技と存在感を見せる。特にこの2人が掴み合いのケンカをする終盤近くの場面は、笑ってしまうほどのスペクタクル。このシーンだけで入場料の元は取れる。そして劇中で大々的に展開されるバレエのシーンの、何と見事なことか。ミハイル・バリシニコフが登場してのステージなど、この男の周りには重力が無いのではと思ってしまうほど。

 ハーバート・ロスの演出は職人技で、ドラマをどんどん盛り上げていく。エミリア役のレスリー・ブラウン(凄く可愛い)をはじめ、トム・スケリット、マーサ・スコット、アントワネット・シブリーなど、脇の面子も万全。第50回米アカデミー賞では10部門で候補に挙がったものの、無冠に終わったのは不思議でならない。
コメント
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