元・副会長のCinema Days

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「ビバリーヒルズ・バム」

2022-02-11 06:17:31 | 映画の感想(は行)

 (原題:Down and Out in Beverly Hills )86年作品。ポール・マザースキー監督作としてはあまり知られていないが、間違いなく彼の政治的姿勢を示す映画だ。また、同時に製作時期におけるアメリカの社会情勢、およびそれに対するリベラル系(?)ハリウッド人種のスタンスも垣間見え、その意味では興味深い一本である。

 実業家のデイヴはビバリーヒルズの豪邸で妻子と共にリッチな生活を送っていたが、家族の内実は問題だらけであった。そんな中、邸宅敷地内のプールでホームレスの男が入水自殺しようとするのを目撃したデイヴは、彼を助けて一先ず邸内に住まわせることにした。

 男はジェリーと名乗り、今は貧しい身なりをしているが、実は学問や芸術に秀でたインテリであり、かつては映画の脚本家として実績を残していた。デイヴはそんな彼に興味を持つが、ジェリーの存在はデイヴ一家に波乱を引き起こす。1932年製作のジャン・ルノワール監督「素晴らしき放浪者」(私は未見)のリメイクである。

 ジェリーは明らかに、60年代にドロップアウトしていったヒッピーやフラワー・チルドレンの生き残りである。事実、ジェリーと一緒に海岸と過ごしたデイヴの周りには、ジェリーの仲間である“それらしい連中”が集まってくる。もちろん、彼らのライフスタイルは過去の遺物でしかないのだが、どうしてあえてジェリーのような人物とビバリーヒルズの住人を映画の中で引き合わせたのか、製作された頃の時代背景を考えればその理由は想像が付く。

 80年代のアメリカは保守主義が大手を振って罷り通っていた。映画界でも「ロッキー4 炎の友情」や「トップガン」といった威勢の良いシャシンが目立ち、反権力を身上とする従来のハリウッドの面子の居場所が無くなっていた。確かにこの時期はアメリカは高い経済成長率を誇ったが、世の中全体が金ピカでペラペラになり、人間性をどこかに置いてきたような風潮があった(少なくとも、この映画の製作陣はそう考えていた)。そこで元ヒッピーのジェリーをトリックスターとして登場させ、当時の世相を大いに皮肉ってみせたというのが本作の本質だろう。

 マザースキーの演出は軽快で、主演のニック・ノルティとリチャード・ドレイファスの掛け合いは楽しく見せる。脇にベット・ミドラーやトレイシー・ネルソン、エリザベス・ペーニャといったライトな面子を配しているのも納得だ(マザースキー自身も出演している)。ドナルド・マカルパインのカメラによる明朗な映像、そして音楽は元ポリスのアンディ・サマーズが担当しているのも面白い。
コメント
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