元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「前科者」

2022-02-19 06:22:17 | 映画の感想(さ行)
 同じく“前科者の更生”をテーマにした西川美和監督の「すばらしき世界」(2021年)に比べると、随分と落ちる内容だ。題材に対するリサーチが甘く、キャラクター設定は不自然で、筋書きは説得力を欠く。何でも、TVドラマ版が前年放映されたとのことで、詳しいことを知りたければそっちの方を見ろということなのか。だとすれば不親切極まりない話である。

 元受刑者のフォローをする保護司の阿川佳代は、この職に就いて3年目。コンビニ店員の仕事と掛け持ちであるが、やりがいを感じていた。彼女が新たに担当するのは、殺人の罪で服役していた工藤誠だ。更生生活は順調で、佳代も誠が社会人として立ち直ることを期待していた。しかし、誠はある日忽然と姿を消す。同じ頃、連続殺人事件が発生。被害者は、過去に誠と何らかの関係があった人物ばかりだ。警察の捜査が進む中、佳代は必死になって誠の行方を追う。香川まさひと&月島冬二による同名コミックの映画化だ。



 まず、佳代がどうして保護司になったのか、その理由が不明確。彼女は昔暴漢に襲われたことがあり、それならば警察官や法曹関係者を目指すのが自然であり、保護司の仕事に興味を持つというのは筋違いだ。誠が弟の実と出会うのは偶然にしても出来すぎだし、佳代の幼馴染の滝本真司が事件を担当している刑事だというのも、完全な御都合主義。しかも、被害者たちは同じ町に今でも住んでいることになっている。

 佳代が一軒家に独り住まいしている背景も説明されない。そもそも、保釈中の殺人犯の保護司を佳代のような年下の若い女子が務めること自体、かなりの無理筋だ。他にもいろいろと突っ込みたい箇所はあるのだが、それらを糊塗するかのように、登場人物たちは滔々と説明的セリフを並べ立てる。正直言って、観ていて途中から面倒くさくなってきた。

 岸善幸の演出はいかにも“テレビ的”で、深味がない。特に、佳代と真司との取って付けたようなラブシーンには閉口してしまった。主演の有村架純をはじめ、森田剛、磯村勇斗、葉竜也、マキタスポーツ、石橋静河、北村有起哉、リリー・フランキー、木村多江と、キャストはけっこう豪華ながらいずれも精彩を欠く。岩代太郎による音楽も印象に残らない。それにしても、有村と磯村が並ぶとNHKの朝ドラ「ひよっこ」を連想してしまう(笑)。
コメント
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