元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「香川1区」

2022-02-14 06:19:48 | 映画の感想(か行)
 面白く観た。ドキュメンタリー映画の快作「なぜ君は総理大臣になれないのか」(2020年)の“続編”で、前回が“主人公”である小川淳也衆議院議員の人物像を追った作品であったのに対し、今作は選挙戦そのものを題材にしている。選挙自体がひとつのドラマであるから、この映画も当然ドラマティックな“筋書き”になるが、作者はそこを開き直って勧善懲悪のストーリーに仕立て上げている。その割り切り方が天晴れだ。

 立憲民主党の小川議員は2003年の初出馬から選挙区では1勝5敗と大きく負け越し、比例復活当選に甘んじていた。香川1区での彼の対戦相手は、前デジタル改革担当大臣である自民党の平井卓也だ。世襲議員であり、地元財界をガッチリ固めた平井の牙城を崩すことは小川にとって困難だと思われたが、2017年の総選挙では差は縮まっている。



 そして迎えた2021年秋の第49回衆議院議員選挙。平井の周囲にはスキャンダルめいた噂が飛び交い、小川にも勝ち目が出てきたように思われた。ところがそれでも平井は手強く、さらに日本維新の会から別の候補者が名乗りを上げるに至り、事態は混迷の度を増していく。

 知っての通り、先の総選挙では香川1区においては小川が勝利している(しかも投票締め切りの瞬間に当確が出た)。だから映画の“結末”は分かっている。そこまでどのように観る者を引っ張っていけるか、それが映画のポイントだが、作者は巧妙にプロットを積み上げて飽きさせない。まず、平井を利権にまみれた俗物に設定し、対して小川をいわゆる庶民派に据えた。事実もほぼその通りで、この対立構図は実に分かりやすい。

 平井の街頭演説に集まるのは、地元財界から“動員”が掛かった者が多くを占める。小川陣営は自らの主張と政治姿勢だけで聴衆を集めている。この違いは実に大きい。さらに、選挙戦も終盤に近付くと当初は余裕をかましていた平井候補は焦りの色が濃くなり、やがて八つ当たり的な批判に走るあたりも愉快だ。また、小川候補も絶対的な善玉ではなく、維新の会に対する言動は明らかに不適切(田崎史郎の指摘の方が正しい)。ただ、そのことが映画の中では小川の人間臭さにも繋がっており、作劇上の瑕疵にはなっていない。

 斯様に2時間半以上の尺がありながら楽しませてくれたことは事実だが、劇中には題材に対する問題点も挙げられている。まず、小川が自転車に乗って道行く者たちに挨拶して回るシーンに代表されるように、我が国における選挙戦が旧態依然とした名前の連呼とイメージ戦略に終始していることだ。立会演説会や戸別訪問もできない現状は、民主主義の危機を暗示している。そして、政策を訴える場面が少ないのも憂慮すべきことだ。もちろん、当選しても政策を実行しない例は多々あるのだが(苦笑)、最低限のスタンスは明示してしかるべきである。

 さて、今回めでたく当選した小川だが、立憲民主党の代表選には決選投票にも残れなかった。これは、同党に危機管理意識が働いたと思われる。今年(2022年)初めに放映された討論番組に出演した彼は、現実無視の空想論を捲し立てていた。まるで昔の社会党である。これでは野党第一党の党首は務まらず、党員が敬遠したのも当然だ。

 とはいえ“たとえ51対49で勝ったとしても、負けた49の側の意見も尊重するのが民主主義だ”という小川の認識は正しい。もしも私が香川1区の有権者だったら、やっぱり彼に一票を入れると思う。それだけ今の与党(および維新)の増長ぶりは甚だしい。
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