元・副会長のCinema Days

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「記者たち 衝撃と畏怖の真実」

2019-05-13 06:27:11 | 映画の感想(か行)

 (原題:SHOCK AND AWE )ロブ・ライナー監督作としては前回の「LBJ ケネディの意志を継いだ男」(2016年)よりも上質だ。もちろん、本作と同時期公開の「バイス」に比べれば大差を付けてリードする。やはり政治ネタを扱う場合は、正攻法が一番だ。「バイス」のように中途半端なケレン味を付与すると、認識の浅さを見抜かれる。

 9.11同時多発テロの翌年、ジョージ・W・ブッシュ米大統領はイラクのサダム・フセインが大量破壊兵器を保有しているとして、イラク侵攻に踏み切ることを宣言。テロに対する義憤に駆られていた多くの国民が、その決定を熱狂的に支持する。一方、中堅新聞社ナイト・リッダーのワシントン支局長ジョン・ウォルコット及び部下のジョナサン・ランデーとウォーレン・ストロベルは、ブッシュ政権の姿勢に疑問を抱いていた。

 同社は元従軍記者でジャーナリストのジョー・ギャロウェイに取材協力を依頼するが、ギャロウェイの幅広い情報網をもってしても、イラクが大量破壊兵器を保有している証拠は見つからない。そんな中、ニューヨークタイムズやワシントン・ポストなどの有力マスコミは政府方針に追随。ナイト・リッダーは開戦気分が高揚する世間の潮流の中で、孤立を余儀なくされる。

 現時点でこのネタを扱う理由は、強硬な姿勢を見せる現トランプ政権には9.11事件当時の共和党政権と通じるものがあるからだろう。もちろん、そこには民主党寄りのハリウッド映画人のスタンスが存在している。だが、そのことを度外視しても、本作でのマスコミの捉え方には大きな求心力がある。

 報道とは事実に則って成されるもので、事実の裏付けの無いネタなど本来はマスコミが扱ってはならないはずだ。しかし、時には政権への阿りや忖度、あるいは大衆への迎合を優先するあまり、虚偽を報じてしまう。アメリカはかつてベトナム戦争で痛い目に遭っていながら、政権およびマスコミは同じ過ちを繰り返している。イラク戦争の際にその欺瞞に気付いていたのが、ナイト・リッダー1社だけであったという苦い事実が重くのしかかる。

 登場人物は皆個性豊かで、題材がヘヴィでありながら人情味たっぷりに描かれている。ウォルコット役で出演もしているライナーの演出はスムーズかつ堅実で、余計なケレンは無い。上映時間が1時間半程度であるのもポイントが高く、作劇のキレの良さを印象付ける。ウディ・ハレルソンにジェームズ・マースデン、ジェシカ・ビール、ミラ・ジョヴォヴィッチ、トミー・リー・ジョーンズといったキャストも万全だ。
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