元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ビューティフル・ボーイ」

2019-05-25 06:36:23 | 映画の感想(は行)
 (原題:BEAUTIFUL BOY )薬物依存症を扱っているわりには妙に小綺麗だ。もちろん、ヘヴィなネタを“軽く”描いてはいけないという決まりは無いのだが、そうすることによって何か別の興趣が醸し出されるわけでもない。主題の捉え方をもっと煮詰める必要があったと思われる。

 優等生でスポーツ万能であったニック・シェフは、ふとしたきっかけでドラッグに手を出し、アッという間に中毒になってしまう。父親は何とか更正させようと施設に入れるが、勝手に抜け出したり、一度は回復するもののすぐに再発したり、まったく上手くいかない。ついには薬物の過剰摂取により重篤な事態に陥ってしまう。ニックの父親であるデイヴィッド・シェフによる実録小説の映画化だ。



 まず、ニックがドラッグに走った理由が具体的に示されていないので、その時点で鑑賞意欲が減退した。アメリカの若い層の間にはドラッグが蔓延していることは分かるが、どうしてニックがそれに関わるのか、まずはそこをテンション上げて描くべきだろう。

 ニックの置かれた背景をあえて考えてみると、父親の影響が大きいのかもしれない。デイヴィッドはフリーの音楽ライターで、取材対象を考慮すればドラッグとは近い距離にいたと思われる。加えて、過保護だ。ニックが小さい頃から存分に甘やかしていたフシがある。それでいて、ニック以外の“家族”には辛く当たる。ニックはデイヴィッドの元妻との間に出来た子供だが、元妻も現在の妻もニックを心配しているにも関わらず、彼は2人に冷淡な態度で接する。ただし“これではニックは拗ねるだろうな”ということは窺われるが、そのことが成績優秀なニックが薬物に走る理由にはならない。

 ニックに扮しているのがティモシー・シャラメだというのも、あまりよろしくない(笑)。美少年タイプの彼のイメージを覆すほどの度胸は作り手には無かったようで、腕の注射跡こそ痛々しいものの、描かれ方が表面的でリアリティが欠如している。麻薬中毒を題材にした凄惨な映画は過去にいくつもあるが(「レクイエム・フォー・ドリーム」や「クリスチーネ・F」など)、本作はそれらの足元にも及ばないと言って良いだろう。

 フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲンの演出は薄味で、頻繁に時制を前後させるのも効果が上がっているとは思えない。デイヴィッド役のスティーヴ・カレルをはじめモーラ・ティアニー、エイミー・ライアン、ケイトリン・デヴァーといった各キャストは熱演だが、映画自体が要領を得ないので“ご苦労さんでした”としか言いようがない。
コメント
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