元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ある日本の絵描き少年」

2019-05-18 06:21:37 | 映画の感想(あ行)
 20分の短編アニメーションながら、アイデアがふんだんに投入されており、飽きさせない。しかもストーリーはシンプルながら奥深く、各キャラクターも“立って”いる。第40回ぴあフィルムフェスティバル・PFFアワード2018で準グランプリを受賞。各地の特集上映やいくつかの映画祭で話題を集めている作品だ。

 主人公シンジは子供の頃から絵を描くことが得意だった。小学校に上がると、同じく絵が大好きなマサルと出会い、仲良くなる。だが、マサルには知的障害があった。互いの家庭環境の違いも影響して、高学年になると2人は徐々に疎遠になっていく。シンジは長じて美大に進学し、漫画家を目指してコンテストに応募。思いがけず入選し、プロデビューのチャンスを掴む。しかし当初は順調に見えた漫画家稼業も、すぐにネタが払底して行き詰まってしまう。一方マサルは、独自の道を歩んでいた。



 漫画のコマ割りのような画面が動き出し、シンジとマサルの物語が展開する。2人の画力は随分と差があるように見えるが、眺めていて面白いのはマサルの絵の方だ。マサルの描く人物はなぜか全員プロレスラーの覆面を被っている。彼がプロレス好きだという説明はあるが、彼の母親や身近な人物も覆面のまま登場して劇中でキャラクター化するのがおかしい。

 シンジの絵は(技術的には)上手いが、ただそれだけだ。突き抜けたところが無い。そのことを自覚するのに、彼は長い年月がかかってしまった。果ては“描きたいものなんて最初から無かった”という認識に至る。これは、観ていて胸が苦しくなった。才能の有無というのは、厳然として存在するのだ。しかし、それでもシンジは(そして、我々のほとんどは)生きていかなければならない。その達観には、大いに感じ入ってしまう。

 後半には実写の部分もあるが、アニメーションのパートとの違和感はほとんどない。監督と脚本を担当する川尻将由の腕は確かで、今後も仕事をチェックしたい気にさせる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする