元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「プラハ」

2018-09-16 06:28:31 | 映画の感想(は行)
 (原題:PRAGUE)91年イギリス=フランス合作。一見単純な三角関係のドラマのようだが、登場人物の掘り下げの深さと舞台背景の魅力、そして丁寧な演出により、見応えのある佳編に仕上がっている。ストーリーも各モチーフの配置が効果的であるため、一筋縄ではいかない面白さを見せる。

 イギリスから単身プラハにやってきた青年アレキサンダーの目的は、亡くなった母と祖父が映る幻のニュース・フィルムを捜すことであった。彼は現地のフィルムセンターで、若い女エレナと館長のヨセフと知り合う。エレナは館長の愛人でもあった。アレキサンダーは母から聞いていたアパートをエレナと共に訪れ、件のフィルムの由来を話す。



 ナチの占領下で収容所に連行される前日、彼の祖父と当時6歳の母は、極寒の川に入って逃れようとした。フィルムにはその様子が映っているらしい。やがてアレキサンダーはエレナと仲良くなるが、突然彼女は“あなたの子供ができたからもう会わない”と言い放ち、フィルムを彼に手渡して去ってしまう。

 殊更ドラマティックな展開があるわけではないが、観ていて引き込まれるのは、各登場人物の孤独感が的確に描出されているからだ。アレキサンダーは母を亡くしたばかりで、本国には友人も頼れる者もいないようだ。エレナにも母親はおらず、思いがけず妊娠してしまった自らの将来が心配で、誰にも相談出来ない。ヨセフは老いを待つばかりで、若いエレナがアレキサンダーに惹かれていくのを見ても、自分では強く出ることはない。

 しかしこの3人の関係は、確執が表に出ることは無い。不幸な歴史が市民生活をズタズタにした後、それでも自分に欠けているものを求め合う、疑似家族といった様相を呈する。イアン・セラーの演出は派手さは無いが堅実で、各キャラクターが抱く哀歓を丁寧にすくい上げる。ラストは予想通りだが、希望を持たせた幕切れで鑑賞後の印象は良好だ。

 アラン・カミング、サンドリーヌ・ボネール、ブルーノ・ガンツの主役3人の仕事ぶりは確かなもので、特にボネールの持つ柔らかい感触は、観ていてホッとする。ジョナサン・ダヴによる静かな音楽。そしてダリウス・コンジのカメラが捉えたプラハの風景は素晴らしく魅力的で、夜風に吹かれて滑るように走る市街電車の描写など、悩ましいほどだ。
コメント
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