元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「希望のかなた」

2018-01-15 06:37:11 | 映画の感想(か行)

 (原題:TOIVON TUOLLA PUOLEN)アキ・カウリスマキ監督の持ち味が今回も全面展開しているが、そこにグローバル社会がもたらす問題点も巧みに挿入され、重層的で見応えのある作品に仕上がっている。2017年ベルリン国際映画祭の銀熊賞の受賞作だ。

 ヘルシンキの港に停泊していた貨物船の中から、煤まみれのアラブ系青年カーリドが現れる。彼は内戦が激化する故郷シリアのアレッポから逃げてきたのだ。いくつもの国境を越える長い旅路を経て、フィンランドにたどり着いたのも偶然に近い。だが、途中で唯一の肉親である妹と生き別れ、それだけが気がかりだ。入国管理局で難民申請をした彼は施設で暮らすことになるが、トルコに移送されそうになる直前、脱走する。

 一方、ヘルシンキで衣料品の卸業務を営んでいた中年男ヴィクストロムは、退屈な仕事も愛想が無い妻もイヤになり、家を出る。ポーカーゲームで大勝し大金を手にした彼は“ゴールデン・パイント”という名のレストランのオーナーとなったが、従業員はやる気が無く、出される料理も話にならないレベルだ。ある日店の前でうずくまっているカーリドを見つけたヴィクストロムは、彼を店のスタッフとして雇い入れる。さらに住居や、偽の身分証まで用意する店長の姿に、従業員たちもカーリドを仕事仲間として受け入れていく。

 舞台は現代であるが、ヴィクストロムが乗るクラシックカーに代表されるように、エクステリアは復古調だ。登場人物達は全員が仏頂面で、ニコリともせずに煙草ばかりをスパスパ吸う。セリフも最小限度に抑えられている。それでいて本作には映画的趣向があふれ、テーマに対する主張は饒舌だ。

 まず“渡る世間に鬼はない”というモチーフを作者は前面に出す。ヴィクストロムおよび店の従業員達はもちろん、警察や入国管理局の役人に至るまで、皆無愛想ながら根は優しい。酒に溺れてやさぐれていたヴィクストロムの妻も、終盤には“いい人”になっている。これは彼らが特別に性根が良いということではなく、他人を助けるぐらいの優しさは誰でも持ち合わせているという、作者の達観が見て取れる。

 だが、そんな構図を踏みにじる存在も描かれている。それは、外国人を憎悪し排斥するスキンヘッドのネオナチ共だ。彼らはアラブ人とユダヤ人の区別も付かないほど無知蒙昧だが、自分達は正しいことをやっていると思い込んでいる。言うまでもなく過度なグローバル化が背景になっているが、彼らが目の敵にするカーリドをはじめとする難民達の苦労も、このグローバル化が原因であることを考えると、問題の根の深さを改めて思い知る。

 カウリスマキ監督のハードボイルドなタッチは健在で、今回は特にユーモラスなタッチが散りばめられていることが印象深い。特にレストランが日本料理に色目を使うくだりは大笑いした。カーリド役のシェルワン・ハジをはじめ、サカリ・クオスマネンやイルッカ・コイヴラ、ヤンネ・ヒューティアイネンといった顔ぶれは馴染みが無いが、皆良い面構えをしている。
コメント
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