元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「トレスパス」

2018-01-19 06:34:56 | 映画の感想(た行)
 (原題:Trespass)92年作品。久々にウォルター・ヒル監督の真骨頂を見たような気がした。かつては「ザ・ドライバー」(78年)「ロング・ライダース」(80年)「ストリート・オブ・ファイヤー」(84年)などの傑作群を放った彼も、80年代後半から作品に力が入らなくなり、「レッドブル」(88年)「48時間PART2」(90年)など凡作の連発。中には「クロスロード」(86年)なんていうワケのわからん映画もあったし、このまま終わってしまうのかと思っていたのだが・・・・。今回の「トレスパス」は、全盛期の作品ほどではないにしても、かなりの線はいってると思う。

 アーカンソー州フォートスミス。深夜、車の中で射殺される男のビデオ画面を見ていたギャングの親分KJとその子分たちは、犯人を郊外の廃屋に呼び出して片付ける算段を始める。一方、消防士のビンスとドンは、火事場で救出しようとした老人から“宝の地図”を無理矢理手渡される。それは50年前その老人が強奪した黄金製のカソリックの祭具(時価数百万ドル)の隠し場所を記したものだった。



 奇しくもその場所が前述のギャングたちが目指す郊外の廃屋の中。こうして殺人を目撃されたKJたちと、黄金を独り占めしようとする消防士たちの血で血を洗う戦いが始まる。重武装したギャングたちに対し、ビンスたちは拳銃一丁。しかしKJの弟を人質にとった彼らは、廃屋に住みついていたホームレスの老人の協力を得て、強行突破をもくろむ。果たして二人は助かるのか。そして黄金は誰の手に。

 まず、何がいいかというと、KJをはじめとするギャング連中の面構えだ。登場人物は消防士二人を除いて全員黒人である。こいつらがめちゃくちゃカッコいいのである。ビシッと高級スーツを着こなし、身のこなしもしなやかに、スクリーン上を走り回る姿が実に美しい。

 KJを演じるのはアイス・T、その一の子分に扮するのがアイス・キューブだと言ったら、音楽ファンはニヤリとするだろう。それに対し白人二人組(ビル・パクストン、ウィリアム・サドラー)は身なりも祖末で、明らかにダサイ。黒人偏重、白人逆差別の映画である(笑)。ノンストップのアクションが展開する一方、携帯電話やビデオカメラといった当時のハイテク小道具が抜群の効果をあげている。

 ヒル作品ではおなじみのライ・クーダーの音楽、そして二人のアイスによるノリのいいラップも当然フィーチャーされている。各キャラクターを短い時間で明確に描き分ける手腕、会話の面白さ、得意の夜のシーンこそないが、まぎれもなくこれはヒルのカラーを示すものだ。消防士という設定があまり生かされないことや、ラストが意外にあっけなかったりする欠点も目につくものの、まずは快作と言っていいだろう。観る価値はある。
コメント
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