元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ハムレット」

2016-12-26 06:37:57 | 映画の感想(は行)
 (原題:HAMLET)何度も映画化されているシェイクスピアの戯曲だが、今回取り上げるのは90年に撮られたアメリカ=イギリス合作だ。コスチューム・プレイには定評のあるフランコ・ゼフィレッリが演出を担当しているのは異論は少ないだろうが、何と主演はメル・ギブソンである。しかもこれが意外にサマになっている。マッドマックスの逞しさと、シェイクスピアが提示する悩める主人公像とが絶妙のマッチングを見せ、観ていて退屈しないのだ。

 このキャスティングからすれば当然のことながら、ゼフィレッリは保守的な観客が喜びそうな内向的文芸映画の線は狙っておらず、ハリウッド的に明快で直裁的なヒーロー映画に仕上げている。ギブソン御大扮するハムレットは、あの有名な“生か死か、それが問題だ”というセリフも早口で軽くこなし、あとは一人で悩むより行動するハムレットを印象付ける。



 原作はシェイクスピアの作品の中では一番長く、そのまま映画化しようとするとケネス・ブラナー監督版(96年)のように4時間を超える“大作”になってしまうが、本作では脚色も簡略化につとめ、ストーリーラインを際立たせることで、誰にでもわかるシェイクスピア映画になった。考えてみれば、ゼフィレッリは「じゃじゃ馬馴らし」(67年)や「ロミオとジュリエット」(68年)でも元ネタとはやや異なるタッチを見せていたし、珍しいことではないのかもしれない。

 また、本作では女性キャラクターを邪魔なものみたいに扱っているところが面白く、しかもガートルードにグレン・クローズ、オフィーリアにヘレナ・ボナム=カーターという粘着質の演じ手を配しているあたり、確信犯的だ。他のゼフィレッリ作品と同じく、舞台セットは見事。デイヴィッド・ワトキンのカメラによる色調を抑えて光と影を強調した中世絵画のような映像も素晴らしい。音楽はエンニオ・モリコーネが担当しており、印象的なスコアを提供している。
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