元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「イン・ザ・ベッドルーム」

2016-12-01 06:33:15 | 映画の感想(あ行)
 (原題:In the Bedroom)2001年作品。これと近い映画はロバート・レッドフォードの監督デビュー作「普通の人々」(80年)であろう。ただし、いくら意欲作とはいえ、しょせんはブルジョア家庭の微妙な鬱屈を小綺麗に追っただけのレッドフォード作品に比べ、この映画は真に切迫している。

 トム・ウィルキンソン扮する主人公は、医師とは言ってもメイン州の小さな漁港の町にある診療所の主に過ぎない。その豊かではないがそれなりに平穏だった生活が、一人息子が年上で子持ちのバツイチ女と付き合っていたことで粉々に打ち砕かれてゆく。その運命の残酷さを、これが初演出となるトッド・フィールドは実に抑制された静謐な画面と語り口で綴る。



 特に淡々とした映像の端々に不安なモチーフを巧妙に配し、終盤の思いがけない暴力シーンの伏線に繋げるあたりの計算高さには脱帽だ。もっとも、息子とそのガールフレンドにドラマを接近させた前半の展開に対し、主人公夫婦をメインに描く中盤以降のタッチが唐突に過ぎ、結果として映画が進むにつれ息子に関するエピソードが省みられなくなったのは欠点だと思う。ラストの余韻もいまひとつ粘りが欲しいところ。

 とはいえ、脳天気なお為ごかしばかりの当時のアメリカ映画の中では、突出した存在感を持っていたのは確かだろう。妻役のシシー・スペイセクは名演。マリサ・トメイの前半の頑張りも印象に残る。トーマス・ニューマンの音楽と、アントニオ・カルバーチェによる撮影は抜群の効果。その年のアカデミー賞主要5部門にノミネートされている。
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