元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「五人の斥候兵」

2014-02-04 06:35:12 | 映画の感想(か行)

 昭和13年作品。「五番町夕霧楼」や「湖の琴」等で知られる田坂具隆監督が手掛けた戦意高揚映画で、彼の戦前の代表作と言われているものだ。今回、福岡市総合図書館映像ホールにて初めてスクリーン上で観ることが出来た。

 岡田中尉が率いる部隊は北部中国で最前線にあったが、戦況は膠着状態に陥っていた。そんな中、本隊から敵陣の偵察命令が下る。隊長は五人の兵士からなる斥候隊を組織し、敵陣地に潜入させる。五人は川の対岸に多数の中国兵がトーチカを築いていることを発見。偵察を終えて部隊に戻ることにしたが、敵に見つけられて攻撃を受ける。何とか逃げ出すことに成功するものの、五人は離ればなれになってしまう。

 陣地には一人また一人と兵士たちが帰還したが、木口一等兵だけ夜遅くなっても戻らない。そんな中、本部から明朝敵陣を占拠せよという命令が下される。

 画質・音質共にノイズが酷く、特にセリフはほとんど聴き取れない。また、映画の前半部分は部隊の日常生活を淡々と追っており、盛り上がりに欠けるのは否めない。しかし、五人が偵察に乗り出す中盤以降はスピーディーな演出で惹き付けられる。特筆すべきはカメラワークで、五人が一列縦隊になって敵陣めがけて疾走するシーンは、素晴らしい高揚感を味わえる。また、緩急を付けるように静的な場面が幾度か挿入されているのも効果的で、休憩シーンなど本当に“一息ついている”雰囲気がうまく表現されている。

 武人そのものといった岡田中尉に扮する小杉勇をはじめ、見明凡太朗や井染四郎等の五人の各キャラも“立って”いるのも見逃せない。それにしても、せっかく敵中での必死の行動を終えて帰還しても、翌日には総力戦に身を投じなければならない理不尽さには、戦争の無常さを感じずにはいられない。しかも、隊員達は揃いも揃って気の良い連中に描かれているので、余計そう思う。

 なお、本作はプロパガンダ映画とはいえ丁寧な作りが評価され、その年のキネマ旬報ベストテンのトップを飾っている。さらには第6回のヴェネツィア国際映画祭ではイタリア民衆文化大臣賞を受賞した。これは、日本映画で初めての三大国際映画祭における受賞である。今から考えると、大したものだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする