元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アメリカン・ハッスル」

2014-02-16 08:33:51 | 映画の感想(あ行)

 (原題:American Hustle )ストーリーは大して面白くないが、キャラクターの奇天烈さと各キャストの怪演は存分に楽しめる映画だ。

 79年、大規模なカジノを建設中のニュージャージー州アトランティックシティにおいて、ケチな詐欺師のローゼンフェルドとその愛人のシドニーはFBIに逮捕される。だが、野心的な捜査官のディマーソとしては、しがないペテン師をしょっ引くだけでは満足しなかった。そこで司法取引をローゼンフェルドに持ちかける。彼にニセのアラブの大富豪がアトランティックシティに出資するような設定をセッテイングさせ、カジノ利権を狙っている大物汚職政治家たちを一網打尽にしようという筋書きだ。

 FBIはその代表格として市長のカーマインの検挙を目指しているが、カーマインは人間味溢れた政治家で、市民の人気も高い。ローゼンフェルドも彼と親友となり、やむを得ず承諾したこのおとり捜査に、いよいよ嫌気がさしてくる。果たして彼らの運命は如何に・・・・という話だ。

 70年代に起こった収賄スキャンダル、アブスキャム事件を映画化したものだが、まず実際のところこの事件が映画化するほどのドラマ性を持ち得ているのかという疑問を感じる。私もよく知らないのだが、映画を観る限り、さほど波瀾万丈の筋書きがあったわけでもないようだ。少なくとも「アルゴ」みたいな“事実は小説より奇なり”を地で行くようなネタではない。終盤にはドンデン返しらしきものも挿入されるが、カタルシスは極小である。

 ところが、ストーリー展開から目を転じて、登場人物の造型に注目してみると、俄然映画的興趣が大きくなってくる。まず、ローゼンフェルドに扮するクリスチャン・ベイルが凄い。ハゲで典型的なメタボ体型。口臭と加齢臭がダブルで襲ってきそうな外観は、不愉快を通り越して笑ってしまう。演じるベイルの、「マシニスト」「ザ・ファイター」と続いた“極限的肉体改造シリーズ”の一つの到達点だ。

 シドニー役のエイミー・アダムスも強烈。エロくて気性の激しいこのキャラクターを、下品になる一歩手前で演じきっている。ブラッドリー・クーパーは、情緒不安定で上司にも平気で暴力を振るうイカれた捜査官を賑々しいパフォーマンスで見せるし、カーマイン市長に扮したジェレミー・レナーもどこか世間とズレた政治家を正攻法で(?)演じきっている。

 そして、ローゼンフェルドの妻ロザリンを演じたジェニファー・ローレンスは素晴らしい。ロザリンは頭が弱く、周囲とのコミュニケーションが上手く取れない。そのため、相手の興味を何とか惹かせようと、しゃべってはいけない事でも洗いざらい口に出してしまう。この、自分ではどうにもならない性癖に悩みつつも、何とか居場所を見つけようとする振る舞いには説得力がある。ローレンスはこの若さにして演技の“ひきだし”は多く、ますます目が離せなくなってきた。

 デイヴィッド・O・ラッセルの演出は脂ぎっているが(笑)、題材と時代設定を考えれば許容範囲内。それにしても、70年代のファッションというのは“異形のもの”であったことを痛感した。今から見たら冗談としか思えないが、当時はこれが普通だったのだ。まさに“時代は変わる”である。
コメント
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