元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ザ・イースト」

2014-02-14 19:12:13 | 映画の感想(さ行)

 (原題:The East)興味深い題材で、作品自体も及第点に達している。いわゆるエコテロリストの生態を描いているが、劇中で扱われている組織はシーシェパードみたいな札付きの無法者集団ではなく、それぞれが“必然性”を持って行動している点が目新しい。しかも、本作のポイントはこのグループよりもそれを取り巻く環境の方に重きが置かれていて、グローバルな問題意識を観客にアピールしていることも勝因だ。

 民間の警備会社ヒラー・ブルードは、通常の警備業務の域を超えたエゲツない荒仕事も手掛け、大手企業を数多く顧客にして業績を伸ばしている。その主なビジネスは、内々に解決したい脅迫やテロなどを事前に潰すことだ。その会社に転職してきた元FBI捜査官のジェーンが最初に得た仕事は、公害企業相手に恐喝を仕掛けてくる環境テロリストグループ“イースト”への潜入調査だった。上手い具合にグループに潜り込んだ彼女だが、やがてそれなりの“正義”を持って行動するメンバーたちに理解を示すようになっていく。

 大義名分こそ持ち合わせている“イースト”だが、やはり青臭い反社会的集団には違いなく、昔のフラワーチャイルドみたいな幼稚なメンタリティを随所に露呈させている。しかし、彼らと敵対するのが警察などの当局側ではなく、ヒラー・ブルードのような民間組織である点が大きな問題だ。

 こういうセキュリティ会社は実在し、大企業の障害になるものを次々と排除していく。だが逆に言えば、クライアントから依頼されていなことは、履行する義理は全くないのである。たとえそれが重大な違法行為に関することであっても目を瞑り、ひたすら顧客と自社の利益だけを考える。警察さえも民営化された近未来を描いたポール・ヴァーホーヴェン監督の「ロボコップ」みたいな世界は、すぐそこに来ているのだ。

 もちろんその背景には、わずかな数の富裕層が国の資産を独り占めしているアメリカの歪んだ状況があるし、グローバリズムという名の収奪システムは全世界を覆う勢いだ。その構図を娯楽作品の中に織り込んだ本作の作劇は、けっこう巧妙だと言える。

 ザル・バトマングリの演出は弛緩したところが無く、緩急付けた展開で最後まで観客を引きつける。ヒロインを演じるブリット・マーリングが出色。初めて見る女優だが、身体も表情もよく動いてこの役を十分練り上げている。この映画の脚本・製作も担当しており、その美貌も合わせて“第二のジョディ・フォスター”との呼び声も高いらしい。エレン・ペイジ、アレキサンダー・スカルスガイド、パトリシア・クラークソンといった脇の面子も良い仕事をしている。

 果たして主人公はテロリスト側に寝返るのか、あるいは本来の職務を全うするのか。映画はそんな大方の予想とは異なる地点に着地する。それは理想主義的だと言われそうだが、作者のポジティヴな姿勢が感じられて、鑑賞後の印象は良好だ。ロマン・バシャノフのカメラによる映像や、ハリー・グレッグソン=ウィリアムズの音楽も要チェックである。
コメント
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