元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「藁の楯」

2013-05-11 06:41:07 | 映画の感想(わ行)

 前半は面白かったが、中盤以降は腰砕けである。その分岐点はどこかというと、主人公達が列車を降りて“地上戦”に移行するあたりである。つまりはスピード感の低下が即映画の失速に繋がっているわけで、その意味では出来が実に“分かりやすい”映画ではある(笑)。

 幼女殺人事件の容疑者を殺せば10億円進呈する・・・・という広告を全国紙に出したのは、被害者の祖父で政財界を牛耳る大物・蜷川であった。身の危険を感じた犯人の清丸は逃亡先の福岡で警察に出頭。しかし、警視庁まで移送する必要がある。その護衛に選ばれたのが凄腕のSPである銘苅や捜査一課の刑事・奥村ら5人。道中には欲に目がくらみ清丸の命を狙う者どもが多数待ち受け、そもそも人間のクズである犯人を守らなければならないディレンマが彼らを悩ませる。果たして彼らは任務を全う出来るのか。

 導入部からテンポが良く、事件発生から護送の段取りの決定までサクサクと進む。飛行機での移動が早々に取りやめになり、山のように警護車両を引き連れて高速道路を走るものの、爆発物を満載したトラックが突っ込んできたりして、またしても移送手段の変更を余儀なくされる。新幹線の一台の車両を“貸し切り”にして東京を目指すが、武装ヤクザ集団が襲いかかり、さらには借金に困った男が子供を人質に取って清丸の身柄の引き渡しを要求。この間の展開は息をもつかせず、アクションシーンも小気味よく繰り出される(特に新幹線内での銃撃戦は出色)。

 ところが、交通手段が新幹線から徒歩(および車)にスピードダウンしてしまうと、途端に演出がモタモタしてくる。しかも困ったことに、それまで疾走感で気にならなかった作劇の甘さが目立ってきてしまうのだ。

 そもそも三池崇史の監督作にしっかりとしたドラマツルギーを求めること自体に無理があるが(笑)、この映画も随分とディテールがいい加減である。普通に考えれば、蜷川がああいう広告を出した時点で殺人教唆により即逮捕だ。百歩譲って蜷川が警察を裏から動かせるほどのフィクサーならば、移送などという面倒臭いことをさせる前に、現場の警察官に清丸を“始末”させればいい。そこからさらに百歩譲って蜷川が無茶な広告を出すことによって世間を騒がせ、それに快感を覚えるサイコパスだと言いたいのならば、事前に彼の異常ぶりをテンション上げて描くべきだ。

 斯様に最初の設定からデタラメであるばかりでなく、出てくる刑事たちが甘ちゃんばかりなのには脱力する。ついウッカリと犯人を取り逃がしたり、近付いてきた一般人と裏も取らないまま安易に接触したり、果ては防弾チョッキを着用する“基準”みたいなのも無視している。本来はこういう作劇上の瑕疵を観客に勘付かれるヒマを与えず、ハイスピードで押しまくるべきなのだ。

 大沢たかお扮する銘苅は前半こそよく身体が動くが、後半になると自らの過去を切々と訴えているばかりの煮え切らないキャラクターに移行してしまい、同僚役の松嶋菜々子は“老い”ばかり目立ってピリッとせず、犯人役の藤原竜也は頑張っている割には凶悪さが出てこない。蜷川を演じる山崎努に至ってはクサい大芝居が全開で、観ていて萎えるばかり。

 要するにアイデアは良いのだが、作り込みが足りずに凡作に終わってしまったという感じだ。脚本を練り上げれば快作になる可能性もあるので、仕切直しの再映画化をお願いしたいところである。
コメント
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