元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

佐々木譲「廃墟に乞う」

2012-04-15 06:38:31 | 読書感想文

 主人公の仙道孝司は北海道警の敏腕刑事だったが、ある事件をきっかけにメンタル障害を患い、休職して療養中の身だ。何とか回復してきた仙道に、過去の仕事で知り合った者達から、次々と難事件の解決を依頼される。警察小説を得意としている佐々木譲の連作短編集で、第142回の直木賞受賞作である。

 佐々木の著作はこれまで何冊か読んでいるが、本書が一番つまらない。少なくとも「警官の血」や「笑う警官」といった彼の代表作と比べれば、相当落ちる出来映えだと言って良い。とにかく全編に渡って薄味に過ぎる。これは仙道のキャラクターがあまりにも弱いことに起因している。

 かなりシビアな体験をして警官業を中断せざるを得なかったことは終盤で明かされるが、それを背負ってしまった暗さや屈託がそれほど感じられないのだ。何やら“単にヒマが出来たので、素人探偵をやってみました”みたいなノリであり、実に印象が薄い。もっとドロドロとした内面を描出して、読者を挑発するぐらいのことはやって欲しかった。

 肝心のプロットも、主人公の軽量級の存在感に呼応するように、かなり淡白だ。どのエピソードも肩すかしで、余韻は限りなく浅い。仙道以外の登場人物も通り一遍の描写しかされておらず、台詞回しにはコクもキレもない。こんな状況でラスト近くには“めでたく職務に復帰”してしまうというのだから、読んでいていい加減面倒くさくなってしまった。

 当然のことながら北海道が舞台になっているが、あまり地域色は出ていない。中には首都圏で展開した方がふさわしいようなネタもあり、この点でも脱力ものである。

 直木賞は、その作家のベストの作品に与えられるとは限らない。対象の小説よりも過去の“実績”を元にして選定される傾向にあることは承知している。しかし、せめて一定のレベルに達したものを取り上げて欲しい。これでは“直木賞受賞!”の帯につられて初めて佐々木の小説を手にした読者が可哀想だ。
コメント
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